水巻町(みずまきまち)の春の牛馬祭りでは、各家の牛馬舎(うまや)の前にわら人形を作り、紙の鎧冑(よろいかぶと)を着せて立たせた。この日は、山んばから牛馬を守る日で、牛馬舎の窓は箕(み)で防いだという。また、カワントントンが山から降りてくる日といわれた。これは、カッパが牛馬に災いをなすことと、山の神が川に下って水の神になることを示している。

 桂川町(けいせんまち)九郎丸(くろうまる)では、山の神の祭りにカワントン相撲をとる。その時、子どもに握り飯を賞品として与えて水難除け、といわれるが山の神とカッパとのつながりがうかがわれておもしろい。長崎県壱岐にも、田の神の往来のように水神往来の伝承がある。遠賀川流域も、水神は春、山から降り水神になって豊作をもたらし、秋に豊作を見とどけて山に帰るのである。カッパも同様に往来するとみられるのは、かつての水神の本性を残すのであって、それが人畜にいたずらをするのはその水神が零落した姿なのである。

    ― 香月靖晴著『「遠賀川」流域の文化誌』より ―