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国土形成計画シンポジウム

「南九州の成長と九州圏土づくり」

●日  時:平成19年7月6日(金)13:30〜16:30
●場  所:鹿児島市・鹿児島サンロイヤルホテル
 国内外の食糧拠点、亜熱帯気候を活かした観光資源の提供など南九州ならではの特性と魅力、そしてその成長力を活かした九州圏土づくりを進めるためにどんな視点や展望が必要かなどを話し合う国土形成計画シンポジウムが開かれました。西村幸夫東京大学大学院教授による基調講演に続き、鳥丸聡鹿児島地域経済研究所経済調査部長による論点提供があり、その後のパネルディスカッションでは九州圏土づくりにおける南九州の将来像について白熱した議論が行われました。

【基調講演】西村幸夫氏(東京大学大学院工学系研究科教授)
「これからの国土のあり方と九州の役割」
■今後はベーシックな日常生活を送る第一次生活圏と都市的なサービスを受けるような第二次生活圏が存在する二重生活圏をもつ社会が考えられ、ベーシックなニーズをどうサポートしていくかの議論も重要となる。
■今後は潤沢に予算を使い幹線道路を整備し、施設の分散配置を行うことは難しい。だからこそ整備が困難な地域は他と異なる魅力や強み、戦略を持って地域づくりを進めることが求められる。それが官だけでは無理な場合、新しい公の存在が必要になる。
■将来どこに住むかについて今後大きな好みの変化が起き、顕在化していくと考えられる。それはIT、テレコミュニケーション等の科学技術の発展にともない、場所を選ばず仕事ができる環境が整うはずだからである。二地域居住人口の数は2005年の105万人に対し2030年には1060万人になると想定され、今後は定住人口だけでなく非常に広い人口を対象にした戦略が求められる。
■ヨーロッパに負けないような中距離ネットワーク、つまりアジアの拠点都市から日帰り可能な交通ネットワークの拡充が急がれる。
■日本海側における対アジア物流が大幅に拡大する中、北九州側を窓口にその後背地である九州全体の魅力をバックアップするために、南九州のサポートも必要とされている。

【論点提供】鳥丸聡氏((株)鹿児島地域経済研究所経済調査部長)
■シリコンアイランドでの南九州の強みは半導体分野でディスプレイ関連工場の立地が多いこと。カーアイランドの点では、200人規模の研究者を抱える自動車研究所があるのをはじめ、計測器具などの精密部品等の製造実績もあり、付加価値の高い部分で関わっていける可能性がある。また食糧供給基地としては、全国シェア26%を誇る畜産業が南九州の強みだ。
■福岡がエンターテイメント機能、劇場都市としての機能を高めているのに対して、他の地方都市は福岡にはない自然や歴史、文化という市場経済では売買できない“非経済財”をどうやって都市機能に取り込むかが課題。
■社会基盤の整備では、福岡への一極集中で九州の東西の発展軸のバランスが崩れ、過疎と過密の格差が拡大傾向にあり、このためムダな税金投入の問題も出てくるので均衡ある発展、過疎・過密でなく「適疎・適密」な交通ネットワークの整備が必要。
■日本の領土・領海を維持している「島」の存在意義や中山間地域が有している水源涵養機能などをどれだけ評価して財政トランスファーをしていくかなども重要な論点。

【パネルディスカッション】
「九州圏土づくりにおける南九州の将来像」
西村幸夫氏(東京大学大学院工学系研究科教授)
■交通は国道10号一本ではやはり東側の軸が弱い。この地域は洪水や地滑りが起きるなど災害常襲地帯であり、リダンダンシーを確保できるようなインフラ整備が非常に重要だ。
■豊富な林業資源を考えると環境に大きな貢献をしている産業として再度見直すことも大切だ。

鳥丸聡氏((株)鹿児島地域経済研究所経済調査部長)
■船は時間的には飛行機より遅いがコストが安い。こうした特性を活かすためにも南九州の場合、細島、志布志、鹿児島、川内といった港をうまく連携させ、さらに高速道路と結んでいく。そうすることで災害時の対応をはじめいろいろなリダンダンシーに富んだ物流システムができていく。
■東アジア全域が鉄道の高速化を進めており、九州新幹線の波及効果倍増計画みたいなものをアジアと一体となって構想することが重要。
■今後はローモビリティ、コミュニティモビリティにも十分に目配せをしてバランスのとれた交通ネットワークの構築が大きな課題となる。

北村良介氏(鹿児島大学工学部教授)
■防災の観点から安心できる地域づくりをどう進めるか、大学では最先端の研究を行いその成果を還元、実用化させていくことが重要。
■行政では、精度のいい防災情報をいかにわかりやすく住民に伝えるかを考える必要がある。住民は受けた情報をきちんと理解し、的確な行動につなげていくことが求められる。
■大切なことは「防災教育」で、それぞれのレベルが連携し、防災教育の普及に努力する必要がある。
■これまでに蓄積された重要な技術、言い伝え、災害経験の若い人への伝承がとても大事。

大野芳雄氏(鹿児島銀行取締役会長)
■産業構造面では食品関連産業のウエートが大変高い。こうした一次産業の基盤を持ちそれを加工し飲食品として提供する産業があることは強みだ。基盤となる地場産業をしっかりつくることが大事だけに、この分野の成長力を高める工夫は必要だ。
■北部九州と連携して南九州の拠点性、拠点力の強化に繋がる成長力を秘めた産業の立地を助ける環境づくりが重要だ。そこで大事なのは、物流、人流、情報も含めた移動時間の短縮だ。
■新幹線が全線開通すると博多―鹿児島間は1時間半で結ばれるが、周辺の拠点都市への移動が同じ時間かかるのでは日帰り旅行圏は鹿児島市までとなる。解決するには道路を中心としたインフラ整備が不可欠だ。
■東シナ海には、歴史的にも地勢的にも鹿児島から沖縄、台湾、中国に至る島嶼という繋がりがあって、いろいろな可能性を秘めている。九州本土、本島から見る島嶼という視点ではなく、沖縄までの連携の中で広域地方計画を考えることにある種の可能性を感じている。

桑野和泉氏((株)玉の湯代表取締役社長)
■鹿児島にはたくさんの「島」があることも観光面から見るとすごい強みではないか。こうした島には独自の風習や食文化が残っていて、とても魅力を感じる。
■アジアを含む世界に一番近い位置にある南九州はその利点をフルに活かして新鮮で安心な日本の“食”を届けることで、日本のものなら値段を問わないという世界の価値観の中で勝負ができることは魅力だ。黒豚や焼酎のように南九州にはしっかりとした品質のものがあるからこそ市場が評価し受け入れてくれる。しかし市場に効率よく届けるにはやはり基本的なインフラは不可欠で、その整備が急がれる。
■小さな村や町の情報が外へ出て、逆に外の情報を村や町でも手に入れることができる情報インフラは、私たちが地域で生きていく上で、また人との交流を始める場合でも絶対的なものだと言える。

小原恒平氏(九州地方整備局長)
■安心のために防災的なインフラをしっかり整備することも大事だが、災害でない時にも安全を守るインフラ、つまり暮らしの基盤の拡充がとても重要だと言える。活性化をどう支えていくかについては、その地域が製造業や農業、観光にしろ何を中核にして発展をめざそうとするかというソフトが大切で、その意味でこうした競争基盤と暮らしの基盤をうまく調和させた形の基盤整備を行うことで地域づくりに貢献していければと考えている。
■地域が持つ個性やその島固有の役割というものは人が住んでいるいないといった単純なものでは語れないし、競争、暮らし、そして交流といった視点からの議論は全国画一的ではない。だからこそ東京の論理ではない九州ならではの広域地方計画を是非つくっていきたい。

 

以上、採録掲載紙より抜粋
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