観光振興と道路 シンポジウム

"観光振興と道路" シンポジウム

パネル討論「九州の観光振興と道路」

景観道路、前例も実践もある 提案・決意・自信が飛び交う
筑波大学教授 石田 東生氏

筑波大学教授


石田 東生氏

北海道開発局建設部道路調査官  和泉 晶裕氏

北海道開発局建設部道路調査官

和泉 晶裕氏

宮崎 暢俊氏




宮崎 暢俊氏

宮崎交通副社長  岩切 道郎氏

宮崎交通副社長


岩切 道郎氏

由布院玉の湯社長 桑野 和泉氏

由布院玉の湯社長

桑野 和泉氏

グリーンツーリズムライター  杉森 直美氏

グリーンツーリズムライター

杉森 直美氏

九州大学名誉教授・道守九州会議代表世話人
樗木 武氏

樗木:
やまなみハイウェイや天草サンセットラインなど景観道路の前例が九州にはある。景観だけにとどまらず、道の自然・文化・歴史・レクレーション性などを生かし、住民活動につなげ、物語性のある交通ネットワークをつくるシーニックバイウェイ、その必要性や可能性を探りたい。
岩切:
宮崎の日南海岸は道路を観光資源にするロードパークであり、走りながら美しい景観を楽しめ、合間に物語がある小休止スポットを設けた。物語りは観光バスのガイドが務めたが、マイカー向けにはガイドに代わる情報発信が必要だ。
桑野:
大分県湯布院町は最近、連泊客やリピーターが増加。連泊を呼び込むには周辺地域の魅力が加わらないと難しい。周辺には自然がいっぱいの「くじゅう」や、「昭和の町」人気の豊後高田などがあり、これらの魅力を結ぶのが道路。道路自体にも魅力を、という議論はされてこなかった。観光地に行くまでのワクワク感を演出する道路を考えたい。
杉森:
田舎の豊かな暮らしに触れることがグリーンツーリズム、シーニックバイウェイも似ていると思う。「風光明美な寄り道」と訳されるが、風光明美よりも土地の風土を感じることがシーニックバイウェイだと思いたい。
宮崎:
熊本県小国町には都会から女性や若者などさまざまな人々が入り、外来者に地元行政の仕事なども手伝ってもらっている。北海道のシーニックバイウェイは美しい光景が土台だが、九州には遠景の美しさに加え人々の生活や物語が豊富だ。例えば天草パークラインの沿線には貝や魚を売る店など地元の人たちの暮らしがある。九州では地域の人々の生活の中でシーニックバイウェイの可能性を探るべきだ。
樗木:
北海道では行政が取り組みだした。理由は何だろう。
和泉:
毎年行う「道の駅」スタンプラリーには5万人が応募、全駅完全制覇約9千人とドライブ観光が急速に増えている。「道の駅」に続くドライブ観光振興策第2弾の必要が第一の理由。美しい景観、魅力ある観光空間には道路管理者だけでなく農村景観の維持など地域の方々との協働が必要で、かつさまざまな活動が地域にはあって、両者をつむぐ糸として(行政が)取り組みを始めた。
樗木:
美しい道や地域には行政だけでなく、住民の意識が重要。
桑野:
美しい町でありたいが、現実の観光地は業者中心で、町並みが崩れたりしている。努力しても町並みの回復には時間がかかる。よいことはすぐに取り入れる柔軟性が九州人、シーニックバイウェイを通して人々が結び合うことができれば素晴らしい。
岩切:
美しい景観と総論賛成でも例えば看板一つの撤去も難しいのが現実。北海道の報告に「行政がやると反発するが地域の声だとうまくいく」例があった。地域づくりの柱としてシーニックバイウェイが盛り上がれば、総論は賛成なので日南の場合は大いに可能性があると思う。
杉森:
美しさだけでなく現地情報がもっとほしい。湯布院や小国は総合案内施設があるが、多くの役場では通り一遍の面白味のない情報しかもらえず旅行者はもの足りない。地域を愛する住民の意識が高まれば役場の態度も変わる。
宮崎:
町づくりは人材育成。住民の共感を得るには時間がかかる。役場職員が住民と毎夜、酒を酌み交わして議論するくらいの覚悟が必要だ。小国町では2年前から町の看板を統一するためにコンサルタントを入れて取り組んでいる。筑後川沿いの大分県日田市から熊本県小国町への広域農道を九州のシーニックバイウェイ第一号にしようと思っている。
樗木:
シーニックバイウェイ導入には地域や住民組織などの積極参加と活動が必要。さいわい「道守九州会議」があり、輪が広がっている。
森将彦(九州地方計画協会副理事長)
会議は今年2月スタートし、メンバーは現在、300団体約2万人。道路の清掃美化やモニター活動から文化、歴史、資源の掘り起こしなど、自主的にさまざまな活動に携わっている。道だけでなく、川や自然、環境、地域づくりなど幅広い活動をされる方々が多い。道守のみなさんがシーニックバイウェイの中心的な担い手になれる。地域の力を合わせた魅力の創造・維持には行政との連携が今後の大きな課題だ。
和泉:
北海道のシーニックバイウェイでは現在、38団体が活動。最初の説明が難しかった。「家に客を迎えるとき部屋を掃除しますね。そういうおもてなしの地域づくりを一緒にやりませんか?」と声をかけた。互いには知らない各団体をつなぐ役割を北海道開発局が担い、話し合いやワークショプなどを通し連絡会議設置など団体間の連携ができつつある。
樗木:
地域からは県や国に何を期待するか。
岩切:
日南海岸ロードパークは昭和20年代から国・県・宮崎交通が三者協定を結び、宮交が中心になって開発。開発は宮交という意識が強かったが、来年の日南海岸国定公園50周年を睨み昨秋、日南海岸活性化協議会が発足。3市2町と民間企業も参加し議論しているが、1町が抜けるなど官と民の間にズレがある。シーニックバイウェイを導入すれば変化するかもしれない。
桑野:
シーニックバイウェイは、あらゆることに関係することなので、民間だけではバラバラになる可能性が強い。音頭を取るのは国と県の役割と思う。
宮崎:
シーニックバイウェイは国交省所管だが、道は国道だけとは限らない。農道はどうなるのか。農道も国道も住民にとっては道路は道路。省庁間の垣根をとって取り組んでほしい。
岡本博(九州地方整備局道路部長)
ワク組みを超え国がいかにバックアップするかにかかっている。シーニックバイウェイを国交省内の道路行政と観光行政の垣根を壊したモデルにしたい。「道の駅」も農水省と国交省の枠組みを越えた良い例で、シーニックバイウェイも同じだと思う。
樗木:
県の考え方を聞きたい。会場にいらっしゃる長崎県の有吉さんどうぞ。
有吉正敏(長崎県土木部道路建設課係長)
初めてシーニックバイウェイの概念を知った。長崎には同じ試みがある。県の西端を走る海沿いの道路は五島列島を望みながら夕日が美しい。途中に疎林や野草が生い茂り景観阻害箇所もある。民有地なので所有者に協力してもらい疎林や草を刈っている。今後も広げるが、地域の理解と住民の意識が一番重要になってくる。
樗木:
九州にあるシーニックバイウェイ的な道路、これをどう広げるか。
杉森:
雄大な景観の北海道は「風光明美な寄り道」でよいが、九州には「人情の道」があってもいい。温かい人情や自然の豊かな暮らしがたくさんあるのにそういう小さな情報がなくて困っている。地元情報を集めたツーリストオフィスをシーニックバイウェイで設けてほしい。
桑野:
地域の人、外から訪れる人、いろんなチームで一緒に物語をつくるのがシーニックバイウェイだと思う。次世代の子供たちを、どう巻き込んでいくかも重要。九州でシーニックバイウェイが展開できたら第一号をみんなで応援したい。
岩切:
走りやすさのためにバイパスや生活道路整備が進みトンネルなどが多くなり、観光スポット素通りのケースが多くなった。旧道とバイパスの分岐点に路面塗装で観光地へ誘導できるようなシステムも必要になるだろう。
宮崎:
景観より人との交流の方が人を引き付ける。「人情の道」に賛成だ。農水省が田園居住性促進法をつくり、自然に恵まれた農村や山間地に住んでもらう政策を進めている。リタイアした人が美しい空間に住めるという方向で、シーニックバイウェイも考えてほしい。
樗木:
ここで会場パネリストの伊原教授に聞きましょう。
井原誠(北九州市立大学教授)
地域活性化策には三つの視点が必要だ。一つは優先付けと目標の明確化。北海道のシーニックバイウェイと九州はどこが違うか明確に。二つ目は相乗効果をいかに出すか。観光にスポットを合わせ雇用確保を。三つ目は利害対立の調整。パイの奪い合いでの共倒れを防ぐために役割分担を。シーニックバイウェイは過小評価されている既存道路に磨きをかけ、派生的需要を喚起するもので、構想は素晴らしいが具体的な肉付けはこれからだろう。
樗木:
さらに会場パネリストの玉川さん、どうぞ。
玉川孝道(「道守通信」編集長)
佐世保のハウステンボスは温泉連携を期待し、福岡市のシーホーク&リゾートは「食」情報などを提供し、年間宿泊客1500万人の福岡市は九州各地に観光客を送り出す仕組みを研究している。今は地域連携の時代だ。かつて九州自然遊歩道づくりの経験もある。これらはシーニックバイウェイに通じ、焼き物や魚介類など特産と観光客とをつなぐのも役割だろう。昔のバスガイドのように親しまれる情報発信の工夫も必要だ。
和泉:
九州には北海道にない歴史風土や資源があり、ストーリー性に富んでいる。システムさえつくれば、北海道以上のものがつくれる。地域との共生と信頼感、コーディネーターの役割は九州でのシナリオには欠かせない。九州と北海道の各々の特徴を生かして、世界に打って出る取り組みにしたい。
石田:
シーニックバイウェイとは、スローな生き方。美しい景観をつくるのは農業や林業の問題だが、すぐにもうかる話ではない。今は頭の中で議論されている段階で、まだ皮膚感覚では分かっていない。まだ始まったばかりで、課題は山積しているが、北海道と九州で成功すれば全国展開できる。
樗木:
従来の九州観光は、特定観光地のスポット型だった。今日のシンポジウムでシーニックバイウェイという概念を取り入れ、つないでいく必要が分かった。つなぐにはストーリー性が必要、だれが創っていくか。実現には地域の信頼感を得る課題もある。一つ一つクリアしなければならない。幸い道守九州会議というネットワーク組織がある。北海道ともアメリカとも違う、九州ならではのシーニックバイウェイが創れるのではないか。頑張りましょう。

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