■ グッドデザイン賞を受賞した河川管理施設『曽木の滝分水路』
曽木の滝分水路(そぎのたきぶんすいろ)は、平成18年7月洪水において大きな被害を受けた川内川上流域の洪水被害を低減
させるため、「川内川激甚災害対策特別緊急事業」(通称:川内川激特事業)により整備された分水路(洪水を流す水路)です。
周辺には、年間約30万人が訪れる景勝地「曽木の滝」があるため、分水路整備にあたっては特に景観に配慮して計画されました。
■ 分水路とは?
洪水で水かさが上がった時にだけ、水が流れる水路をつくり、より多くの水をすみやかに海に流すことで、川の水をあふれにくくするための施設です。
川内川では、この曽木の滝分水路と下流のさつま町内にある推込分水路の2箇所に整備されています。
■ これまでのあゆみ
【景勝地 曽木の滝について】
鹿児島県伊佐市内にある曽木の滝(そぎのたき)は、一級河川川内川の上流域に位置し、川内川水系で最大の落差(約12m)を有する滝です。滝幅も約210m あり、日本一の規模となっています。その迫力ある大瀑布の姿から「東洋のナイアガラ」とも呼ばれ、毎年約30万人が訪れる川内川流域有数の観光拠点となっています。 隣接する「曽木の滝公園」には、観光拠点施設や売店、レストラン等も並び、春には満開の桜、秋には色とりどりの紅葉を楽しむことが出来ます。 曽木の滝(平成26年8月撮影) 曽木の滝公園のご案内(伊佐市ホームページ)
【曽木の滝周辺の観光資源】
曽木の滝周辺は、観光資源にも恵まれています。曽木の滝のすぐ下流にある「観音渕」には、戦国時代に豊臣秀吉が九州遠征の際に 訪れたと伝えられています。当時の薩摩地方を支配していた戦国大名島津氏を降伏させた秀吉は、島津氏の家臣だった新納忠元(にいろただもと)の案内で曽木の滝を 見物します。忠元は、案内しながら秀吉を滝つぼに落としてしまおうとすきをねらっていましたが、その気配を察した秀吉は観音渕の上で滝を見物する間、ずっと 忠元の袖をつかんで体をすり寄せ、すきを見せませんでした。忠元は、秀吉の洞察力に驚いて、以後は心服したと伝えられています。 昭和に入ると、歌人の柳原白連(やなぎはら びゃくれん)が曽木の滝を訪れています。NHKの朝の連続ドラマ「花子とアン」の登場人物のモデルだったことで ご存知の方も多いことでしょう。彼女は、曽木の滝を訪れた際、案内人から忠元と秀吉の話を聞いて、『もののふの昔がたりを曽木の滝 水のしぶきにぬれつつぞ聞く』と 歌を詠んでおり、曽木の滝の前には、その歌碑も残されています。 曽木の滝から少し下流にいくと、現在、日本最大規模のダム再開発事業が展開されている鶴田ダムも あります。そのダム湖(大鶴湖)には、日本の電気化学工業の父と称される野口 遵(のぐち したがう)が建設したレンガ造りの 曽木発電所遺構があり、ダム湖の水位が下がるとその威容を現します。
【平成18年7月の水害】
平成18年7月、川内川流域では、鹿児島県北部豪雨災害により、川内川観測史上最大の洪水が発生しました。曽木の滝の上流域に位置する伊佐市・湧水町・えびの市 でも、住宅地や農地の浸水被害が発生。上流域全体では、床上浸水約900戸・浸水面積約970ヘクタールという大きな被害を受けました。 これを受けて、川内川流域では、同年10月に川内川激特事業が始まり、流域の各地で河道掘削や築堤 などのさまざまな治水対策工事が展開されました。 ところが、曽木の滝では周辺一体が自然豊かな景勝地であるため、河道掘削や築堤では、貴重な景観や自然環境を損なうおそれがありました。そのため、曽木の滝周辺においては、 分水路による整備が検討されました。
【景観を配慮した計画検討】
曽木の滝分水路の整備においては、掘削による長大な法面が、観光地としての滝の景観を崩してしまうのではないかという恐れが 生じたことから、熊本大学や九州大学の学識経験者、伊佐市・地元商工会・観光協会・鹿児島県の関係者、地域住民の代表者、川内川河川事務所職員から構成される「曽木の滝分水路景観検討会」を設置。 景勝地「曽木の滝」や周辺景観との調和をはかり、「あたかも自然が創り出したかのような景観の創出」をコンセプトに、模型や3次元CADを用いて景観性・機能性・経済性を総合的に 検討し、自然景観の創出に配慮した事業を展開しました。
【工夫を重ねた施工】
分水路施工の際も、様々な工夫が施されました。分水路が、まるで何千年も前から存在した谷間に見えるよう、法面掘削面が自然な丸みを 帯びる工法を採用。大勢の観光客が訪れる曽木の滝から見て、掘削した山肌が見えないよう、川内川と分水路の境界の山を残す措置も行いました。 また、掘削した法面には地元の樹種を選定して混植し、「鎮守の森」の再現を図りました。
【分水路の完成】
曽木の滝分水路の工事は、平成20年度から約3ヵ年に渡って続けられ、平成23年3月に完成の日を迎えました。その年の6月、川内川流域では再び大雨が降り、川内川の水位は上昇しました。 この出水の際、曽木の滝分水路内に川内川の水が流れ込み、初めて洪水を分流しました。 初分流に関する記者発表資料
【観光資源としての活用】
曽木の滝分水路の完成後、曽木の滝や周辺の観光資源等を活用し、滞在時間増につながる地域振興策を検討するため、地元NPOやコミュニティ協議会、伊佐市、伊佐市観光特産協会、熊本大学、川内川河川事務所の 関係者からなる「曽木の滝周辺活性化検討会」が設置されました。 平成23年及び平成24年には、地元NPOや地域住民、熊本大学の関係者等により、曽木の滝分水路の一般公開イベント「曽木はっけんウォーキング」も開催され、大勢の方々が曽木の滝分水路や曽木発電所遺構等の 周辺観光資源を巡るイベントに参加されました(右の写真はそのウォーキングの模様)。 そのほか、伊佐市民有志による観光ボランティアガイドも組織され、曽木の滝分水路を初めとした周辺の観光資源を中心に、年間1,000人以上の観光客を案内されています。 ■ 曽木の滝分水路に対する評価
曽木の滝分水路は、こうした一連の整備過程やコンセプト等が高く評価され、平成24年にグッドデザイン賞
を受賞しました。さらに、2012年グッドデザイン
・ベスト100にも選ばれ、同年に選ばれた総てのグッドデザイン賞受賞対象の中で、持続可能な社会の実現を目指している優れたデザインに贈られる特別賞
グッドデザイン・サステナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)も受賞しました。
■ 関連資料
■ 関連リンク
・川内川激特事業記録誌 ・熊本大学景観デザイン研究室 ・グッドデザイン賞 ■ 曽木の滝分水路の写真
平成23年 上流側より撮影 平成23年 下流側より撮影 平成24年 下流側より撮影(曽木はっけんウォーキング開催時) 平成25年 上流側通路より撮影 平成26年 上空より撮影 ■ 曽木の滝分水路へのアクセス
曽木の滝分水路は、曽木の滝公園の対岸側(左岸)にあります。 曽木の滝公園が目印となります。曽木の滝公園からは、下流側にある新曽木大橋で川内川を渡り、曽木の滝分水路に至ることができます。 なお、上流側にある旧曽木大橋は、現在撤去工事中のため、渡ることはできませんので、ご注意下さい。 【曽木の滝公園 所在地】 鹿児島県伊佐市大口宮人635番地
国土地理院の地理院地図で周辺の地図をご覧になることができます。
クリックやドラッグ、マウスホイール操作で縮尺や位置を変える事も可能です。
右クリックで標高や緯度経度も確認できます。 ■ 現場見学のご案内
曽木の滝分水路の見学をご希望される方には、下記の点にご了承頂いた上で、申込書を川内川河川事務所調査課までメール又はFAXにてお送り下さい。
■ 曽木の滝分水路に関するお問い合わせ窓口
〒895−0075 国土交通省 九州地方整備局 川内川河川事務所 調査課(電話) 0996−22−3359 (FAX) 0996−25−0862メールでのお問い合わせはこちらから |
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