九州地方整備局 記者発表資料

平成14年7月22日

平成14年6月13日及び同年6月18日~22日の毎日新聞(朝刊)に掲載された「川辺川ダム治水効果検証」、「再考川辺川ダム開示資料は問いかける」等に関しての、毎日新聞社福岡総局長あて、公開書簡について

毎日新聞社は、平成14年6月13日、及び同18日~ 22日の朝刊において、「国土交通省は洪水規模を過大に設定しており、実際は堤防強化や河床掘削で治水か可能である」との主張を展開されました。
しかし、今回の一連の記事には、

  • 多くの事実に基づいていない推定で論理構成されている。
  • 国土交通省の正式な見解ではなく、結論となっていない検討業務の報告書の一部の記述のみを取り上げて、それを抜粋するなどして、一方的に記事を構成している。
  • さらに、出典として、その報告書を「内部文書」と表現し、読者に誤解を与えている。
  • 九州地方整備局河川調査官が発言していない内容をコメントとしてのせている。

といった点が見受けられます。

正確で公平な報道が求められ、社会的影響力も大きな報道機関である毎日新聞社が、今回、このような記事を掲載したことは、川辺川ダム事業に係る説明責任を果たすよう様々な取り組みを行っている九州地方整備局としては、極めて残念に思うとともに、大きな疑問を持っております。

このようなことから、九州地方整備局では、今後とも川辺川ダム事業に係る説明責任を果たしていくため、平成14年7月22日付けで、毎日新聞社福岡総局長手島博様あてに、別添の書簡を発出いたしました。

なお、今回の一連の記事については、外部からの問い合わせも多く、九州地方整備局としても説明青任があると考えており、本件に関する毎日新聞社との書簡の往復は、公開の扱いとさせて頂こうと考えており、あわせて、その旨申し入れいたしました。

問い合わせ先:国土交通省九州地方整備局
河川部 TEL 092-471-6331 (代表)  
河川調査官 工藤 啓( 内線3513)  

(別添)

毎日新聞社福岡総局長手島博様

拝啓、平素より九州地方整備局の国土交通行政に問しましてご高配を賜り御礼申し上げます。
さて、量社は平成14年6月13日、及び同18日~ 22日の貴紙朝刊において、「国土交通省は洪水規模を過大に設定しており、実際は堤防強化や河床掘削で治水が可能である」との主張を展開されておられます。

今回の一連の記事には、

  • 多くの事実に基づいていない推定で論理構成されている。
  • 国土交通省の正式な見解ではなく、結論となっていない検討業務の報告書の一部の記述のみを取り上げて、それを抜粋するなどして、一方的に記事を構成している。
  • さらに、出典として、その報告警を「内部文警」と表現し、読者に誤解を与えている。
  • 九州地方整備局河川調査官が発言していない内容をコメントとしてのせている。

といった点が見受けられます。

私どもは、異なる見解が存在する案件を扱う場合には、それぞれの見解や論拠を確認して行うのが、報道の基本ではないかと考えております。ご承知のように、現在、川辺川ダム事業については、「川辺川ダムを考える住民討論大集会」において、九州地方整備局、推進派、異論者等の間で話論が進められている状況にあります。

このような中、川辺川ダム事業の妥当性について報道されるのであれば報道される側である九州地方整備局の主張や論拠を十分に取材した上で報道することが不可欠ではないかと考えます。

正確で公平な報道が求められ、社会的影響力も大きな報道機問である貴社が、今回、このような記事を掲載されたことは、川辺川ダム事業に係る説明責任を果たすよう様々な取り組みを行っている九州地方整備局としては、極めて残念に思うとともに、大きな疑問を持っております。

九州地方整備局としては、今後とも川辺川ダム事業に係る説明青任を果たしていくため、今回の記事に係る以下の事実問係を把握したいと考えておりますので、次の点についてご教示いただければ誠に幸いに存じます。

1.平成14年6月13日朝刊
「川辺川ダム治水効果検証現実離れの被害想定問われる分析の意味
  1. 実際の河川では、堤防ができておらず、氾濫はするものの破堤はしない場合や、河川の水位が危険な水位に達しても、かろうじて破堤を免れた場合などがあります。こうした現象が起きた回数を無視して、「けた違いに多い想定破堤数」と過大である旨の主張をされておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  2. 実際の河川では、1年間のうちに大きな洪水が複数回発生する場合があります。また、洪水は自然現象であり、過去40年間(1961年(昭和36年)~2000年(平成12年))という比較的短期間では、その発生頻度は必ずしも確率どおりにはなりません。貴紙は、過去40年間という比較的短期間で、毎年の最大流量のみをもって、洪水の発生頻度を算出し、「大水発生も大きく食い違い」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  3. 球磨川流域では梅雨時に「大雨が3日間以上連続して降る」のは決して「特異な降り方」ではありません。平成14年6月23日に開催した「川辺川ダムを考える住民討論大集会」時の国土交通省説明資料P11にも記載しましたが、平成7年7月洪水において、仮にもっと集中して降っていれば人吉地点の流量は7,000m3/s以上となるとのシミュレーション結果もあります。貴紙は昭和40年7月という「特異な降雨年がモデルに」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  4. 以上のとおり、川辺川ダムの費用対効果分析は「現実離れした被害想定に基づいて」行っているということは決してなく、当方では適切な想定に基づいて川辺川ダムの費用対効果分析を行っております。貴紙は「”机上の空論”で効果算出」と主張されておられますが、これはどのような取材に基づくものなのでしょうか。
  5. 貴紙中の「想定よりも実際の破堤数が少ないのは、仮定条件も一因だろうが」との河川調査官のコメントはどのような取材に基づくものなのでしょうか。
平成14年6月18日朝刊
「球磨川最重要堤防の流下能力 九地整1割以上低く主張」
  1. 貴紙中の「内部文書」とは、八代工事事務所が建設コンサルタント会社に委託した検討業務の報告書(「球磨川河道水位検討業務報告警(2分冊の2) 平成8年3月)であり、河川改修の長期的計画検討のための基礎資料としているものであります。この記事の取材にあたった福岡賢正記者には取材に先立って、「検討業務の報告書は、建設コンサルタント等が作成したものであり、結論となっていない、検討過程のものである。報告書のコメントや数値は、直ちに国土交通省の正式な見解とはならない。」旨を申し入れております。このような経緯にもかかわらず検討業務の報告書を「内部文書」と表現し、読者に誤解を与えておられます。また、貴紙は「球磨川最重要堤防の流下能力 九地整1割以上低く主張 96年内部文警で判明」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  2. 球磨川の萩原地区の流下能力については、平成13年度以前は、その時々の必要性、状況等に応じて、様々な検討をしてきており、結論となっていない検討過程のさまざまな値がありました。そうした中、球磨川の八代地区の流下能力が現在のような議論の対象になっていなかったので、正式に何m3/sとは評価しておりませんでした。このため、はじめて萩原地区の流下能力の値を公表資料等に記載したのは平成13年度版の「川辺川建設ダム事業Q&A」の公表時であり、この時に流下能力の値を「約6,900m3/s」と記載いたしました。このような経緯に対して、貴紙は、河川調査官が「流下能力を(6900立方メートルに)下方修正した」と弁明したとし、「九地整は以前から一貫して萩原の流下能力は毎秒7000立方メートルないと言っており、弁明は過去の説明と食い違う。」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  3. 貴紙中の「川辺川ダム見直しの動きに伴って」、及び「流下能力を下方修正した」との河川調査官のコメントはどのような取材に基づくものなのでしょうか。
3 平成14年6月19日朝刊
再考川辺川ダム1 「深掘部は死水域か」
  1. 萩原地区は水あたり(水衝部)となっており、深掘れが進行しております。このため、平成12年度に、萩原堤防強化工事の一環として、河床の補強対策として埋め戻しをしており、今後も、予算がつけぱ実施していくこととしております。1995年10月(平成7年10月)に建設省治水課(当時)が出した「河道計画に問する基礎調査要綱」は現在使用しておらず、また、この調査のマニュアルに「深掘れ部は原則として全断面有効とする」と書かれていても、現実に深掘れ部の埋め戻しを予定しているので、九州地方整備局としては、水位計算においてこれを考慮するのは当然のことと考えております。貴紙は、「深掘れ部は死水域か」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  2. 貴紙中の「00年作成の球磨川萩原地区河道湾曲部水理模型実験業務報告警」とは、平成11年度に八代工事事務所が建設コンサルタント会社に委託した検討業務の報告書であります。この検討業務の報告書では、萩原地区の6.6K断面と6.8K断面の河道横断図の重ね合わせを行い、6.6Kの断面から「若干堆積傾向にある」と記述しております。しかし、このような傾向が見られたのはこの6.6K断面のみであり、その他の断面の深掘れ部は顕著な変化はみうけられません。深掘れした状態が変わっていないということは、今後も堤防が危険な状態が続くこととであります。このため、九州地方整備局としては、萩原堤防強化工事の一環として、今後とも河床の補強対策として埋め戻しをしていくこととしております。貴紙は、「深掘れ部を埋め戻さなくても、注意深く変化を見守っていけぱいいのではないか」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
平成14年6月20日朝刊
再考川辺川ダム2 「堤防高の不思議」
  1. 物をつくる時には、余裕代(品質的、物理的他)を見込むものであり、萩原堤では、堤防の沈下、変形、道路工事等による損傷に備え余盛り部分を確保しております。萩原堤の護岸にかなりの数のクラックが入っていますが、これは堤防の沈下や変形等によるさらなる影響と考えられます。また、現在堤防上にある道路の補修工事等が行われればさらに堤防が損傷する可能性はあります。貴紙は、「萩原堤防がこれから沈下するとは考えにくい」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。また、堤防の変形、道路工事等による損傷が今後発生する可能性についてはどのようにお考えなのでしょうか。
  2. 貴紙中の畳堤は、「完成して半世紀、一度も機能していない」と書かれているように、洪水時にはこれまで使われたことがありません。貴紙中の写真の時(平成13年)にはじめて演習で使われたのみであります。九州地方整備局としては、このように実際に使われていない畳堤と、道路路盤とがどちらが堤防として有効かについて比較をしても意味がないと考えております。貴紙は、「路盤と、薄い畳のどちらが堤防として有効なのだろう」と書かれ、両者を比較されておられますが、これはどのような意味があるものなのでしょうか。
  3. 貴紙中の「オーバー分は堤防の収縮や地盤沈下の想定分」との河川調査官のコメントはどのような取材に基づくものなのでしょうか。
平成14年6月21日朝刊
再考川辺川ダム3 「高水流量算出の謎」
  1. 洪水ピーク流量の算出は、水循環を取り扱う学問である「水文学」の分野で研究されております。この分野の研究者・技術者で組織されている「水文・水資源学会」が編集した「水文・水資源ハンドブック」に次のように書かれております。
水文・水資源ハンドブック水文・水資源学会編 P228

「わが国の洪水防御計画においては、降雨の頻度解析を基にして計画洪水を定めることが基本となっている。洪水記録に比べて、降雨記録が長年にわたって存在すること、観測精度が比較的よいことによる。洪水データが直接利用されない理由は、記録年数が降雨に比べて短いこと、観測精度に問題があること、流域変化の影響が大きいことなどである。」

流量確率については、最近流量データの蓄積が進み、研究も進み、全国の主要河川で算出されるようになってきました。球磨川では、はじめて流量確率を算出したのは平成9年であります。

流量確率については、前記のような様々な課題が指摘されており、計算結果にも幅があります。このため、基本高水のピーク流量の決定にあたっては、雨量確率を基本とし、洪水流出シミュレーションモデルで算出し、その結果を、これまでの洪水の実績流量や他の河川の比流量と比較し、さらに確率流量の幅の中に入っているかチェックするなどして、総合的に検討し、決定しております。

九州地方整備局では、このような考えに基づいて、流量確率の計算結果を用いております。これに対して、貴紙は「高水流量算出の謎」として「適合度も誤差の大きさも問わぬ九地整の方法と、適合度が高く、誤差が最小の値を採用した報告書の方法と、果たしてどちらが合理的だろうかだろうか」と主張されておられますが、これはどのようなお考えに基づくものなのでしょうか。

平成14年6月22日朝刊
再考川辺川ダム4 「砂利採取で流量増す」
  1. 九州地方整備局では、人吉地区においては、次の理由から、大規模な河床掘削はできないと考えております。

    ・瀬・淵の消失などにより、河川環境が著しく悪化し、舟下りへの影響やアユなどの漁業への影響、周辺の地下水への影響が懸念されるなど、地域社会や自然環境への影響の観点から大きな課題が生じます。
    ・舟下りや環境への影響に配慮しつつ、大規模な岩掘削を行うことは技術的に困難であります。
    ・経済的にも、川辺川ダムより費用がかかります。

    これに対して、「砂利採取で流量増す」と主張されておられますが、これはどのようなお考えに基づくものなのでしょうか。
  2. 河床には元の河川改修計画の計画河床高(以下「元の計画河床高」という。)よりも局所的に深い部分があります。平均河床高はこうした部分も含んだ平均の河床高であります。従って、平均河床高と元の計画河床高との高さの差分の河床掘削を行った場合、局所的に深い部分も含んだ河床断面がその高さの差分だけ下方にスライドすることとなり、元の計画河床の断面と一致することはありません。貴紙は、「川底を計画通り下げればその流量は堤防に約2mもの余裕を残して流れることが、82年当時の水位と河床の縦断図から続みとれる。」と主張されておられますが、これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。
  3. 貴紙中の「人吉地区の河床高と水位の縦断図」は、貴紙に示されているとおり「球磨川新河道検討業務報告誉」のデータをもとに作成されていると見受けられます。しかし、この縦断図の中で、「82年当時の平均河床高」のみが、そのデータを使用せず、「球磨川新河道検討業務報告警」に掲載されているデータよりも最大で2m程度、平均で1m弱程度高い平均河床高のデータでプロットされているように見受けられます。この最大で2m程度、平均で1m弱程度高い平均河床高のデータの出典をお教えください。また、最大で2m程度、平均で1m弱程度高い平均河床高のデータを使用されたのはどのようなお考えに基づくものなのでしょうか。

今回の一連の記事については、外部からの問い合わせも多く、私どもとしても説明青任があると考えており、本件に関する今後の貴社との書簡の往復は、公開の扱いとさせて頂きたいと考えておりますので、宜しくお願い申し上げます。

なお、福岡賢正氏の署名入り記事である平成13年11月27日の記事、平成14年2月24日の記事のそれぞれについて、平成14年3月19日に、毎日新聞福岡総局長永吉和幸様に文書で抗議、記事訂正の申し入れ、質問等を行っておりますが、回答をいただいておりません。貴社から明確な回答がいただけない場合は、私どもの主張が少なくとも妥当であることの証左と理解いたしますので、ご理解くださるようお願い申しあげます。

平成14年7月22日               

国土交通省 九州地方整備局 河川部長 川﨑正彦

広報広聴対策官 鳥巣英司