第2章 大野川の現状と課題

第1節 治水の現状と課題

 大野川では、直轄事業の改修工事として昭和4年から本川において計画高水流量5,000m3/secを目標に、全川にわたり堤防築造や河道の掘削を行っていましたが、昭和18年9月の大洪水により、戸次町外5町村地先の堤防が破堤し、また改修区域である竹中村から河口に至る19kmにわたって耕地3,000町歩が氾濫によって甚大な被害を受けました。これにより、昭和21年に基準地点犬飼における計画高水流量を7,500m3/secに改め、このうち1,500m3/secを乙津川に分派する計画としました。なお乙津川分流工事については、建設省土木研究所でその当時の最先端技術である模型実験により位置を決定し、昭和32年より昭和38年にかけて施工しました。さらに、本川については引堤及び掘削工事を継続しました。

 また、近年の流域内の開発状況等に鑑み、昭和49年に基準地点を白滝橋とし、同地点における基本高水のピーク流量を11,000m3/secとし、そのうち上流ダム群により1,500m3/secを調節して河道への配分流量を9,500m3/secとする計画を決定し、堤防の築造、河道の掘削及び高潮対策等を実施してきた結果、直轄管理区間内の堤防については概ね完成しました。

昭和41年9月・台風19号
(大分市中判田)
平成2年7月・梅雨前線
(大野川20/0付近)
鶴崎護岸災害復旧工事
(乙津川3/6付近)
乙津川分流堰
(乙津川9/0付近)

 

その後、平成5年9月に昭和4年の直轄河川改修着手以来最大の洪水が発生したことにより、以下の対策が必要となっています。

1.流下能力

 平成5年9月洪水では大野川本川左岸8/400〜8/800付近及び、派川乙津川左右岸3/600〜9/000付近において、樹木による流下阻害や流下断面不足により、洪水の水位が計画高水位(H.W.L)を越えました。水位が計画高水位を越えると破堤の危険性が極めて高くなることから、洪水時の水位を低下させるための対策が必要となっています。

 また、大野川本川右岸18/600付近では、洪水位が国道10号の高さを約1m越え、交通への支障が発生したことから、越水を防止するための対策が必要となっています。

 さらに、乙津川の分流堰周辺や高田橋上流付近では流出土砂の堆積による流下阻害が懸念されています。

2.内水氾濫

 大野川、乙津川沿川では、背後地における宅地化の進展により、平成2年7月出水、平成5年9月出水、平成9年9月出水等近年の出水では、新興住宅地等において内水被害が深刻化しています。特に平成5年9月出水では、床上浸水202戸、床下浸水332戸にものぼる大規模な被害が発生しました。

 これらの浸水被害を軽減するため、排水機場、水門・樋門改築等施設整備のハード対策と浸水地区の公表、水位情報発信等のソフト対策が課題となっています。

 50箇所に及ぶ水門・樋門等の中には、老朽化及び背後地の状況の変化等により機能確保に支障がでてきているものもあります。また、それらの操作人の後継者不足も問題となってきています。

平成2年7月出水
(大分市毛井)
平成9年9月出水
(大分市迫)

3.河床の変動

 水衝部においては、局所的に河床の深掘れが生じています。深掘れが進行すると護岸や堤防などが崩壊し、甚大な被害が予想されるので、深掘れの進行を防止する対策が必要となっています。

4.大規模な洪水の恐れ

 近年、計画規模を上回る洪水による災害が全国各地で発生していますが、大野川沿川の背後地は、県都大分市を抱え人口・資産が集積していることから、このような洪水が発生した場合壊滅的な被害が予想されます。

 よって、被害を最小限に抑えるために、関係機関と連携を図りながら、防災体制の充実を図る必要があります。

昭和18年9月 破提個所 (大野川8/4付近)

第2節 河川の利用及び河川環境の現状と課題

1.河川水の利用

 河川水の利用としては、大野川本川においては工業用水として約7.37m3/sec、水道用水として約0.69m3/sec、農業用水として約0.49m3/secの計約8.56m3/secが利用されています。また、派川乙津川においては工業用水(塩水含み)として約14.33m3/sec、農業用水(乙津川自流取水)として約0.43m3/secの計14.76m3/secが許可されており、大野川本川及び派川乙津川で合計約23.32m3/secの許可水利があります。これに対して、白滝橋地点における過去35ヶ年間(昭和38年〜平成9年)の平均渇水流量は19.7m3/sec、平均低水流量は28.5m3/secです。大野川は、豊富な水量を誇っており、近年渇水被害については起こっていませんが、今後、近年の全国的な少雨化現象による流量減や、社会情勢等の変化によっては水不足が懸念されます。

 よって、大野川の有する清らかで豊富な水を永く保つために、流域全体で一体となって健全な水循環系の保全を図る必要があります。

2.河川空間の利用

 河川空間の利用状況については、平成9年度の河川水辺の国勢調査によれば、年間推計約32万人の沿川住民に広く利用されており、水面は手づくりイカダ河下り大会などの観光イベントやカヌー、魚釣り等の利用の場として、また、堤防は桜づつみ等の憩いの場、高水敷はスポーツ広場、ゴルフ場、採草地として利用されています。特にスポーツ広場は、大野川本川と派川乙津川に整備され、多くの人々に利用されています。また、派川乙津川は、市民の憩いの場となっており、大野川本川からの浄化用水の導水路は、ヘラブナ釣り、水遊び等を楽しむことができる親水広場として親しまれています。

 このように多くの人々に利用されている大野川ですが、近年、沿川にも市街化の波が押し寄せ、都市部における貴重な水と緑のオープンスペースとして、周辺住民に親しまれる場のさらなる確保が求められています。さらに人々が水や自然に親しめるよう、特に未来を担う子どもたちが、自然環境とのふれあいや体験学習の場としての河川に親しむ施設の整備も求められています。

 なお、これらの施設の整備にあたっては、「桜づつみ愛護会」等の住民ボランティア団体との連携、支援を行うことや、まちおこし、地域づくりと一体となった川づくりを進める必要があります。

手づくりイカダ河下り大会
(大野川14/8付近)
桜づつみ
(大野川2/8付近)
スポーツ広場
(乙津川6/2付近)
ゴルフ場
(大野川14/0付近)
採草地
(大野川11/4付近)
導水路
(大野川10/8付近)

3.水質

 一方、水質はBODの75%値で見ると大野川本川の白滝橋地点及び鶴崎橋地点において約1mg/リットル以下、派川乙津川の海原橋地点で約2mg/リットル以下と良好なものとなっています。なお、派川乙津川においては、工業排水・家庭排水等によって河川水質が悪化した時期もありましたが、大野川本川からの浄化用水の導水等により、現在では環境基準もほぼ満足しています。しかし、今後も良好な水質を満足していくためには、自治体をはじめ流域全体で、生活雑排水対策等に取り組んでいく必要があります。
図2―1 大野川の各地点における水質(BOD75%値)の経年変化

4.河川環境

 大野川本川の河川環境については、床固めなどの横断工作物が数カ所で設置されていますが、回遊魚であるアユが上流まで多く生息していることから、遡上・降河を妨げていないと推測されます。また、植生については、人工草地やグラウンド等を除いた、自然植生の約7割はオギ群落で占められています。

 大野川本川の河口から11k200付近までは感潮区間となっており、感潮区間末端の瀬は、水産資源保護法に基づく大分県内水面漁業調整規則により保護水面として指定されるなど良好なアユの産卵場であり、9〜12月が産卵期となっています。

 河口から川添橋付近においては、河道の湾曲も緩やかで、高水敷幅も狭く、低水護岸が整備されており単調な水際線となっています。河口に僅かに見られる干潟にはハクセンシオマネキ等のカニ類、ゴカイ類、貝類等が生息し、シギ類、カモメ類の餌場・休息場となっています。水域にはボラ、ハゼ類等の汽水・海水魚が多く生息しています。高水敷には人工草地が広がっているほかはオギ群落が優占し、セッカなどの鳥類や、カヤネズミ等が多く見られます。

干潟
(大野川0/6付近)
川添橋付近のワンド
(大野川7/0付近)
アラカシ林
(大野川13/2付近)
アユの産卵場
(大野川10/8付近)

 本川の川添橋付近より上流は、河道の湾曲も大きくなり、瀬や淵、ワンドも見られ多様な水際線が形成されています。また、高水敷も広くなり、自然河岸がほとんどを占め、下流から上流にかけてオギ群落、竹林やツルヨシ群落、ヤナギ林が繁茂し、13k付近に分布するアラカシ林はサギ類の集団ねぐらに、白滝橋付近の河原はコアジサシの集団営巣地となっています。水域には、アユ、ウグイ、カマツカ等が多く見られます。

 派川乙津川の河川環境を見ると感潮区間が多く、自然植生の殆どはオギ群落とヨシ・アイアシ群落で占められています。

 河口から高田橋付近までが感潮区間であり、低水路幅は狭く、河床は、シルト質土が多く、瀬や淵は見られません。また、水際は、ヨシ、アイアシ群落が優占し、オオヨシキリなどの鳥類の生息・繁殖場となっています。高田橋付近から分派地点までは、水辺から高水敷にかけオギが繁茂しています。

 このように大野川には、生物の多様な生息環境等の貴重な河川環境が存在しており、この河川環境を保全し、共生していくためにも、河川環境に関する情報を系統的に収集整理しながら様々な生物にとって棲みやすい自然に近い川づくりを行う必要があります。また、近年の河川利用等により乙津川のハマサジ等の群落が消滅する等の状況も見られ、今後河川敷内の整備にあたっては、これらの生息環境を保全・復元していく必要があります。さらに在来種の保護にも注意をはらい、調査・観察する必要があります。

オギ群落
(乙津川3/6付近)
ヨシ群落
(乙津川3/8付近)
オオヨシキリ
(大野川1/2付近)
ハマサジ
(乙津川1/2付近)

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