大分川水系河川整備基本方針

1. 河川の総合的な保全と利用に関する基本方針

(1)流域及び河川の概要

大分川は、その源を大分県由布市湯布院町の由布岳(標高1,583m)に発し、由布院盆地を貫流し、阿蘇野川、芹川等を合わせて中流の峡谷部を流下し、由布市挾間町において大分平野に入り、賀来川、七瀬川を合わせ、大分市豊海において別府湾に注ぐ、幹川流路延長55km、流域面積650km2の一級河川である。

その流域は、大分県のほぼ中央に位置し、大分市、由布市、別府市、竹田市をはじめとする5市2町からなり、流域の土地利用は、山地等が約84%、水田や畑地等の農地が約11%、宅地等の市街地が約5%となっている。

流域内には、下流部に県都である大分市があり、また、沿川には大分自動車道、国道10号、210号、JR日豊本線、JR久大本線等の基幹交通施設が存在し、交通の要衝となるなど、この地域における社会・経済・文化の基盤を成すとともに、大分川の豊かな自然環境に恵まれていることから、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。

大分川流域は、由布岳・鶴見岳・大船山・鎧ヶ岳などの高峰に囲まれ、阿蘇くじゅう国立公園、神角寺芹川県立自然公園がある。河床勾配については、上流部は約1/500~1/1,000であるが、中流部は1/50程度の急勾配となっている。下流部は河岸段丘と沖積平野が形成され、約1/200~1/2,500となっている。

流域の地質については、上流部には洪積世安山岩や由布院盆地付近に新第三紀安山岩、中流部には由布川軽石層、下流部には沖積作用による砂礫粘土などの沖積層が分布している。支川七瀬川の上流部は今市火砕流、下流部は沖積層となっている。流域の平均年間降水量は、上中流部では約1,900~2,200mm、下流部では約1,600mm、流域全体としては約1,900mmであり、台風性の降雨並びに梅雨性の降雨が多い。

源流の由布岳は、由布・鶴見火山群のクマシデ林やミヤマキリシマ低木林等の自然林やススキ草原が分布する他はスギの人工林などで覆われており、山裾の河岸は巨石や岩塊に覆われ山地渓流を呈し、由布院盆地へ流下している。

由布院盆地を貫流する上流部は、ギンブナやカワムツなどの魚類が生息し、マコモなどの水辺植生が繁茂する水際部には、カワセミやトノサマガエルなどが生息している。

峡谷形態をなす中流部は、河岸は崖状でアラカシ林が分布している。瀬・淵が連続する水域には、アカザやカワムツなどの魚類が生息し、渓流にはカジカガエルやヤマセミなどが生息している。

大分平野を流れる下流部は、ヤナギ類などの河畔林が分布している。水域にはアユ、ウグイ、ヨシノボリ類などの産卵場となる瀬が分布し、わずかに残る干潟にはクボハゼやハクセンシオマネキなどが生息している。

支川七瀬川の上流部は渓流で、カジカガエルやオオイタサンショウウオなどが生息している。七瀬川の下流部は里山を流下し、スナヤツメなどの魚類が生息しているほか、初夏にはゲンジボタルの飛翔がみられる。

大分川の本格的な治水事業は、明治26年及び大正7年洪水を契機に、昭和5年から県営工事として、滝尾橋地点から河口までの区間について築堤、護岸等を実施していたが、昭和16年から直轄事業として着手し、明磧橋における計画高水流量を2,300m3/sとし、大分市小野鶴から河口までの区間及び賀来川、七瀬川等の主要区間について築堤、掘削、護岸等を実施した。

その後、昭和28年6月に計画高水流量を上回る大出水があり、昭和31年に明磧橋地点の基本高水のピーク流量を3,200m3/sとし、このうち、同年に完成した上流の芹川ダムにより300m3/sを洪水調節して計画高水流量を2,900m3/sとし、派川裏川に500m3/sを分派させる計画とした。この計画に基づき、大分市小野鶴から河口までの区間及び賀来川、七瀬川、裏川の主要区間について築堤、掘削、護岸等を実施し、昭和42年には、一級河川の指定を受け、従前の計画を踏襲した工事実施基本計画を策定した。

また、昭和45年には下流の大分市街部における土地利用の高度化と新産業都市建設に関連して、大分川から500m3/sの分派をしていた派川裏川を締め切り、本川下流部の計画高水流量の改定を行った。さらに、昭和49年には、大分川の改修区間を大分市小野鶴から天神橋まで延長した。

しかしながら、流域開発の進展に伴う氾濫区域内における人口及び資産の増大、洪水の発生等に鑑み、治水の安全性を高める必要性が増大したことから、昭和54年4月に基準地点を府内大橋に変更して基本高水のピーク流量を5,700m3/sとし、このうち洪水調節施設により700m3/sを洪水調節して、計画高水流量を5,000m3/sとする工事実施基本計画に改定した。この計画に基づき、大分川で大分市今津留地区の引堤及び無堤区間の築堤、七瀬川で市捷水路の開削等の工事を実施した。現在は、大分川の大分市国分地区で引堤の事業を進めている。

砂防事業については、上中流部において大分県が昭和26年から砂防堰堤等を整備している。

河川水の利用については、現在、流域外も含めて農業用水として約8,500haの農地でかんがいに利用され、水道用水としては大分市や由布市挾間町等で、工業用水としては大分市内で利用されている。また、水力発電として芹川発電所をはじめとする14ヵ所の発電所による最大出力約52,530kWの電力供給が行われている。

水質については、河口から府内大橋までがB類型、それより上流がA類型で高度成長期には環境基準値を超えていたが、生活排水対策などの水質改善により、現在、いずれの地点も環境基準値を満足している。

河川の利用については、下流部の堤防や高水敷は、散策やスポーツ、花火大会などのイベント会場として活用され、水面はアユ釣りやカヌーの練習に利用されている。中上流部には、男池や由布川渓谷等の景勝地が点在し、多くの行楽客が訪れている。

 

(2)河川の総合的な保全と利用に関する基本方針

大分川水系では、洪水氾濫等による災害から貴重な生命、財産を守り、地域住民が安心して暮らせるよう社会基盤の整備を図る。また、干潟や瀬と淵などの多様な水域を有する自然豊かな河川環境を保全・継承するとともに、大分川と古くから「豊後の国」の中心として栄えた流域の歴史や文化とのつながりを踏まえ、地域の個性や活力を実感できる川づくりを目指すため、関係機関や地域住民と共通の認識を持ち、連携を強化しながら、治水・利水・環境に関わる施策を総合的に展開する。

このような考え方のもとに、河川整備の現状、森林等の流域の状況、砂防や治山工事の実施状況、水害の発生状況、河川の利用の現状(水産資源の保護及び漁業を含む)、流域の歴史、文化並びに河川環境の保全等を考慮し、また、関連地域の社会経済情勢の発展に即応するよう環境基本計画等との調整を図り、かつ、土地改良事業や下水道事業等の関連事業及び既存の水利施設等の機能の維持に十分配慮し、水源から河口まで一貫した計画のもとに、段階的な整備を進めるにあたっての目標を明確にして、河川の総合的な保全と利用を図る。

治水・利水・環境にわたる健全な水循環系の構築を図るため、流域の水利用の合理化、下水道整備等について、関係機関や地域住民と連携しながら流域一体となって取り組む。

河川の維持管理に関しては、災害発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全の観点から、河川の有する多面的機能を十分に発揮できるよう適切に行う。また、上流から海岸までの総合的な土砂管理の観点から、流域における土砂移動に関する調査研究に取り組むとともに、安定した河道の維持に努める。

 

ア 災害の発生の防止又は軽減

災害の発生の防止又は軽減に関しては、沿川地域を洪水から防御するため、流域内の洪水調節施設により洪水調節を行うとともに、大分川の豊かな自然環境に配慮しながら、堤防の新設、拡築、河道掘削等により、河積を増大させ、護岸整備等を実施し、計画規模の洪水を安全に流下させる。なお、アユの良好な産卵場となっている七瀬川合流部付近においては、産卵場の保全に配慮して、河道掘削にあたり、モニタリングを行いながらその結果を反映して適切に実施する。

内水被害の著しい地域においては、関係機関と連携・調整を図りつつ、必要に応じて内水被害の軽減対策を実施する。

堤防、樋門、排水機場等の河川管理施設の機能を確保するため、巡視、点検、維持補修、機能改善等を計画的に行うことにより、常に良好な状態を保持しつつ、施設管理の高度化、効率化を図る。

河道内の樹木については、樹木の阻害による洪水位への影響を十分把握し、河川環境の保全に配慮しつつ、洪水の安全な流下を図るために計画的な伐採等の適正な管理を実施する。

大分川の下流部は、東南海・南海地震防災対策推進地域に指定されていることから、地震・津波対策を図るため、堤防の耐震対策等を講ずる。

また、計画規模を上回る洪水及び整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生し氾濫した場合においても、被害をできるだけ軽減できるよう、必要に応じた対策を実施する。

洪水等による被害を極力抑えるため、既往洪水の実績等も踏まえ、洪水予報及び水防警報の充実、水防活動との連携、河川情報の収集と情報伝達体制及び警戒避難体制の充実、土地利用計画や都市計画との調整等、総合的な被害軽減対策を関係機関や地域住民等と連携して推進する。さらに、ハザードマップの作成の支援、地域住民も参加した防災訓練等により災害時のみならず平常時からの防災意識の向上を図る。

本川及び支川の整備にあたっては、本川下流部において人口・資産が特に集積していることから、本川下流部の整備の進捗を十分に踏まえて、中上流部の整備や支川の整備を進めるなど、本支川及び上下流間バランスを考慮し、水系一貫した河川整備を行う。

 

イ 河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持

河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、新たな水資源開発を行うとともに、広域的かつ合理的な水利用の促進を図るなど、都市用水及び農業用水の安定供給や流水の正常な機能を維持するため必要な流量の確保に努める。

また、渇水等の発生時の被害を最小限に抑えるため、情報提供、情報伝達体制を整備するとともに、水利使用者相互間の水融通の円滑化などを関係機関及び水利使用者等と連携して推進する。

 

ウ 河川環境の整備と保全

河川環境の整備と保全に関しては、これまでの流域の人々と大分川との関わりを考慮しつつ、大分川の流れが生み出した良好な河川景観を保全し、多様な動植物の生息・生育する豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。このため、流域の自然的、社会的状況を踏まえ、河川環境の整備と保全が適切に行われるよう、空間管理等の目標を定め、地域住民や関係機関と連携しながら地域づくりにも資する川づくりを推進する。

動植物の生息地・生育地の保全については、下流部においてアユ、ウグイ、ヨシノボリ等の産卵場を保全するとともに、汽水域において多様な生物が生息する干潟やヨシ原の保全に努める。

良好な景観の維持・形成については、豊後富士と呼ばれる由布岳などと調和した河川景観の保全に努める。

人と河川との豊かなふれあいの確保については、生活の基盤や歴史、文化、風土を形成してきた大分川の恵みを活かしつつ、自然とのふれあいや環境学習の場の整備・保全を図る。水辺空間に関する多様なニーズを踏まえ、自然環境との調和を図りつつ、適正な河川の利用に努める。

水質については、河川の利用状況、沿川地域の水利用状況、現状の環境を考慮し、下水道等の関連事業や関係機関との連携・調整、地域住民との連携を図りながら、現状の良好な水質の保全に努める。

河川敷地の占用及び許可工作物の設置・管理については、動植物の生息・生育環境の保全、景観の保全に十分に配慮するとともに、多様な利用が適正に行われるよう、治水・利水・河川環境との調和を図る。

また、環境に関する情報収集やモニタリングを適切に行い、河川整備や維持管理に反映させる。

地域の魅力と活力を引き出す積極的な河川管理を推進する。そのため、河川に関する情報を地域住民と幅広く共有し、防災学習、河川利用に関する安全教育、環境教育等の充実を図るとともに、住民参加による河川清掃、河川愛護活動等を推進する。

 

2. 河川の整備の基本となるべき事項

(1)基本高水並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項

基本高水は、昭和28年6月洪水、昭和34年8月洪水等の既往洪水について検討した結果、そのピーク流量を基準地点府内大橋において5,700m3/sとし、このうち流域内の洪水調節施設により700m3/sを調節して河道への配分流量を5,000m3/sとする。

基本高水のピーク流量等一覧表

河川名 基準地点 基本高水のピーク流量(m3/s) 洪水調節施設による調節流量(m3/s) 河道への配分流量(m3/s)
大分川 府内大橋 5,700 700 5,000

 

 

(2)主要な地点における計画高水流量に関する事項

計画高水流量は、賀来川の流入量を合わせ明磧橋において4,200m3/s、七瀬川の流入量を合わせ府内大橋において5,000m3/sとし、さらに下流域からの流入量を合わせて広瀬橋において5,100m3/sとし、その下流は河口まで同流量とする。
支川七瀬川については、胡麻鶴において1,000m3/sとする。

大分川計画高水流量図(単位:m3/s)

 

(3)主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る川幅に関する事項

本水系の主要な地点における計画高水位及び計画横断形に係る概ねの川幅は、次表のとおりとする。

主要な地点における計画高水位及び川幅一覧表

河川名 地点名 河口又は合流点からの距離(km) 計画高水位T.P.(m) 川幅(m)
大分川 8.7 明 磧 橋 11.89 190
府内大橋 6.8 9.75 270
広 瀬 橋 5.0 7.86 270
七瀬川 胡 麻 鶴 合流点から6.2 25.02 100

 

 

(4)主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項

本川の府内大橋地点から下流における既得水利は、水道用水0.578m3/s、工業用水0.174m3/sの合計0.752m3/sの取水がある。これに対し、府内大橋地点における過去38年間(昭和41年~平成15年)の平均低水流量は約13.8m3/s、平均渇水流量は約9.5m3/sである。府内大橋地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量は、利水の現況、動植物の保護、流水の清潔の保持等を考慮し、概ね6.6m3/sとする。なお、流水の正常な機能を維持するため必要な流量には、水利流量が含まれているため、本川の水利使用等の変更に伴い、当該流量は増減するものである。

 

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