第4章 河川整備の実施内容

第1節 河川工事の目的、種類及び施行の場所並びに当該河川工事の施行により設置される河川管理施設の機能の概要

1. 洪水時の水位を低下させるための対策

洪水時の河川の水位を低下させ、整備目標流量(基準地点白滝橋9,500m3/sec)を安全に流下させることを目的に、昭和18年洪水で堤防が破堤した実績がある地区等、表4-1に示す位置において高水敷掘削・樹木伐採を行います。

表4-1 洪水時の水位低下対策
河川名 場所 整備内容
大野川 大分市丸亀地先 左岸6/650~7/350付近 高水敷掘削・樹木伐採
大分市宮河内地先 右岸7/500~8/150付近 高水敷掘削
乙津川 大分市皆春地先 左岸2/500~3/400付近 高水敷掘削
大分市皆春地先 左岸4/200~4/600付近 高水敷掘削
大分市森地先 左岸4/500~5/200付近 樹木伐採
大分市鶴崎地先 右岸3/700~4/200付近 樹木伐採

これらの実施にあたっては、図4-1に示すように、高水敷掘削においては、ヨシ等の水際に生える植物が生育し、多様な魚介類、底生動物等の生息場・繁殖場となっている水際や、死水域で深さ・底質が変化に富み河道と連続しているワンド等の改変を極力抑えるよう、平水位以上の掘削を行います。また、掘削にあたっては現存する自然植生の再形成を目指し、管理に支障のない範囲で、その生態に配慮した施工を行うとともに、大分市が占用している高水敷でスポーツ広場となっている箇所の高水敷掘削については、利用者のニーズに配慮し実施します。樹木伐採は、種別の植生分布、樹木の有する洪水の流勢の緩和等の治水機能及び生態系等を調査し、伐採樹木の選定や伐採時期等を考慮し、治水上必要な最小限の伐採とします。

樹木伐採及び高水敷掘削に際しては、当該地区において環境調査を行い、その調査結果を基に河川環境保全モニター・河川水辺の国勢調査アドバイザー・リバーカウンセラー等の有識者の意見を聴き、施工中及び施工後においてはモニタリング調査を行う等、自然景観、動植物の生息・生育環境の保全に配慮します。

また、河床変動調査を実施し、堆積の著しい箇所については、第2節に示す河川の維持の中で対処し、流下能力の低下を招かないように配慮します。

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図4-1 洪水時の水位を低下させるためのイメージ図

2. 洪水時の越水を防御するための対策

大野川の利光地先では、背後地の高さが低いことにより、平成5年9月洪水において越水し、国道10号の交通に支障が生じた区間があります。また、本川水位が高くなることと、本川と支川の締切り樋門がないため本川背水位の影響から堤内地の家屋や耕地が浸水しています。このため、整備目標流量(基準地点白滝橋9,500m3/sec)を安全に流下させることを目的に表4-2に示す位置において築堤(特殊堤)を実施し、また、表4-3に示す支川の流入口に排水樋門を設置します。

表4-2 洪水時の越水防御対策
河川名 場所 整備内容
大野川 大分市利光地先 右岸18/340~19/000付近 築堤(特殊堤)
表4-3 排水樋門の新設
名称 河川名 場所
利光第1排水樋門 大野川 大分市利光地先 右岸18/450付近
利光第2排水樋門 大野川 大分市利光地先 右岸18/650付近
利光第3排水樋門 大野川 大分市利光地先 右岸18/930付近

図4-2 洪水時の越水を防御するための対策イメージ図

3. 内水対策

背後地において宅地化が進んだことにより、近年の出水においては、新興住宅地における床上浸水等内水被害が深刻化しています。このような被害の軽減を図ることを目的に、平成5年洪水において床上浸水被害が生じるなど、内水被害が著しい地域において表4-4 ,表4-5に示した排水機場及び水門などの内水対策施設を整備します。

また、近年の出水において床上浸水被害等が発生している地区のうち、背後地の宅地化・地域開発により流出形態が変化し、排水機能が不足している宮谷排水樋門について改築を行い、被害の軽減に努めます。

なお、背後地の状況変化等により内水対策の必要性が高まった地区については、国・大分県・大分市等で構成する「大分川、大野川内水排除検討委員会」に図り、事業の調整を行ったうえで実施します。

さらに、内水被害が発生した河川については、河川管理者の保有する排水ポンプ車を活用するとともに、大規模な内水氾濫においては、管内に配備された排水ポンプ車を機動的に活用し、円滑かつ迅速に内水被害を軽減するよう努めます。

表4-4 排水機場の新設
名称 河川名 内水対象河川 場所
迫川排水機場 大野川 迫川 大分市迫地先 右岸3/200付近
北鼻川排水機場 乙津川 北鼻川 大分市毛井地先 左岸8/600付近
鴨園川排水機場 乙津川 鴨園川 大分市森地先 左岸6/200付近
表4-5 水門の新設・樋門の改築
名称 河川名 内水対象河川 場所
大谷水門 大野川 大谷川 大分市宮河内地先 右岸7/400付近
宮谷排水樋門 大野川 宮谷川 大分市宮谷地先 右岸10/350付近

図4-3 迫川排水機場イメージ図

4. 河床安定化対策

水衝部においては、局所的に河床(川底)の深掘れが生じていますが、洪水時に深掘れが進行すると護岸崩壊や堤防崩壊により甚大な被害を被る危険性があります。このため、特に昭和18年洪水等により堤防が壊れた実績がある表4-6に示す地区においては、ベーン工法等の対策が行われ一定の成果を挙げていますが、今後もモニタリング調査を継続し、必要に応じて、護岸や堤防の崩壊を防ぐための河床安定化対策を行います。

施工にあたっては、河道形態の状況等を調査し、専門家等の意見を踏まえ、河床安定のための効果的な工法や位置等を選定するとともに、当該地区において環境調査を行い、その調査結果を基に河川環境保全モニター・河川水辺の国勢調査アドバイザー・リバーカウンセラー等の有識者の意見を聴き、施工中及び施工後においてはモニタリング調査を行う等、自然景観、動植物の生息・生育環境の保全に配慮します。

また、河道形態の状況については、今後も監視・調査を行います。

表4-6 河床安定化対策
河川名 場所
大野川 大分市丸亀地先他 8/200~8/800付近

5. 大規模な洪水による氾濫被害の軽減対策

県都大分市を流下する大野川において、計画高水を上回るような洪水等が発生した場合には、大分市の被害は甚大となることが予想されます。このため、昭和18年洪水等により堤防が壊れた実績があり、水衝部で局所的な深掘れがある等、大規模洪水により大きな被害が予想される表4-7に示した箇所において、堤防の強化を行います。また、越水時の水勢を弱めて周辺地域の被害を軽減するため、大分市の都市緑地計画と連携し、樹林帯を整備します。

なお、樹林帯の整備にあたっては、周辺環境への影響が考えられるため、樹木の選定等について専門家や周辺住民の意見を聴きながら実施します。

さらに大野川の堤防は、戦前・戦後の復興期に完成された箇所も多く、堤防の材料も川の掘削土が利用される等、堤防の強度についての点検が必要になっています。

このため、過去の破堤箇所や旧川跡地の堤防箇所を重点的に調査し、その結果をふまえて堤防強化等の対策を行います。

対策個所

表4-7 大規模な洪水による氾濫被害の軽減対策
河川名 場所 整備内容
大野川 大分市丸亀地先他 左岸7/200~9/500付近 堤防の強化
大分市丸亀地先他 左岸7/200~8/600付近 樹林帯の整備

図4-4 大規模な洪水による氾濫被害の軽減対策イメージ図

6. 河川とのふれあいや体験学習の場等の整備

大野川では、川に親しむイベントとして、川下り大会、魚のつかみどり大会、ハゼ釣り大会等が定着し、毎年河原を賑わせていますが、日常的な川との関わりは希薄になってきています。

子供や親達が川から離れ、遊ばなくなった理由には、川の持つ危険性、水質の問題などの様々な要因が重なっています。

しかし、子供達の健やかな成長のためには、自然体験が必要であり、身近な魅力ある自然空間としての河川に期待が集まっています。大野川でも子供達が自然体験できる場として、表4-8に示す河川環境の整備を国、大分県、大分市、地域住民、学識経験者等と連携・調整を図り、可能なものから順に整備します。

これらの整備にあたっては、地域のニーズ・親水性に係わる現況特性・親水活動と地域の係わり等を把握したうえで、「水と緑のネットワーク」を構築します。

なお、下表以外にも地域住民、大分県、大分市等から整備の要望があった場合は、その内容について調査・検討し、県・市等と連携・調整を図り、可能なものから順に整備します。

表4-8 河川とのふれあいや体験学習の場等の整備(候補地)
河川名 場所 整備内容
大野川 大分市鍛冶屋地先 左岸 水辺の楽校
乙津川 大分市森町地先 左岸
大野川 大分市下戸次地先他 右岸12/000~17/500付近 ウォーキングロード
乙津川 大分市西鶴崎地先 右岸2/200 付近 自然河岸再生
場所 整備内容
直轄管理区間内
  • 瀬、淵、洲、ワンドの再生
  • 湿地等のビオトープ
  • 歴史、文化、生態系等に関する標識等
  • 階段工、斜路工等
  • バリアフリー施設
  • 水辺の歴史、文化資料館
  • サイクリングロード
  • 駐車場
  • ベンチ、休憩場
  • トイレ
  • 船着き場

など

7. 多自然型川づくりの推進

大野川の河川整備に当たっては、治水上の安全性を確保しつつ、生物の多様な生息・生育環境に配慮した瀬や淵などの良好な自然環境の復元が可能となるような多自然型川づくりを行います。

また、乙津川への導水路上に堆積した砂利、玉石等や各種河川工事で発生した土砂等については生態系、河床維持に配慮し砂利、玉石の一部を川に返す等の対策について今後検討します。

第2節 河川の維持の目的、種類及び施行の場所

大野川は、沿川の背後地の宅地化や地域開発に伴って人口・資産の集積が進行し、都市部における貴重な水と緑のオープンスペースとして多くの人々に親しまれているとともに良好な水質が保持されており、大野川が有する治水・利水・環境機能の果たす役割は益々重要なものとなっています。
このため、河川の維持管理や災害復旧の実施にあたっては、治水・利水・環境の視点から調和のとれた所期の機能を維持することを目的として、環境調査・モニタリング調査・河川水辺の国勢調査結果等を踏まえ、瀬と淵をはじめとする良好な自然環境を保全すること等を考慮し下記の事項を行います。

1. 河川管理施設の維持管理・災害復旧

洪水、高潮時等による災害の発生を防ぐためには、既存の堤防、護岸、樋門、水門等の河川管理施設の機能を十分に発揮させることが必要です。このため河川管理施設の現有機能の把握・評価を行った上で、機能の低下を防止するための復旧・修繕、機器の更新並びに局所的に堆積した土砂等の撤去を行います。なお、河川管理施設の機能低下及び質的低下の原因としては、洪水等の外力による損壊と経年的な劣化や老朽化によるものがありますが、前者については速やかに復旧・修繕等の対策を、後者については計画的に補修・更新等の対策を行います。

特に大野川特有の課題である40~50年前に造られた水門・樋門等の老朽化及び水衝部等の局所的な河床深掘についても、河川巡視、点検を実施して状況を把握し、必要に応じた対策を行います。また、洪水・高潮時等において操作を行う必要がある水門・樋門、排水機場等の施設については、的確な操作が実施できるよう操作環境の改善及び操作の動力化・遠隔化を行います。

2. 樹木等の管理

大野川の河道内の樹木等の管理は、洪水時の流下能力を維持することや、洪水の流勢緩和等の治水機能及び河川環境を保全するために必要です。このため河道内樹木の繁茂状況等のモニタリングを行い、周辺河川環境を考慮しながら伐採、除草、保全等の維持管理を行います。

3. 河川空間の適切な利用調整・管理

大野川の河川空間は、都市部における貴重な水と緑のオープンスペースとなっていることから、今後地域社会からの河川利用に関する多様なニーズに対しては、利用者間の調整はもとより治水・利水・環境に配慮して適切な管理を行います。

また、新たな工作物の設置についても、河川整備基本方針及び本計画との整合を図りつつ、治水・利水・環境の視点から支障をきたさない範囲で判断し対処します。

さらに、河川利用を妨げる不法投棄・不法占用・不法係留等を減らすため、河川巡視を強化し必要に応じ市町村や警察と連携し、監督処分を含めて対応を図ります。

4. 砂利採取の調整

大野川の砂利採取については、河床変動状況から判断して河床低下傾向にある区域について、原則的に砂利採取禁止区域を継続して設定し、その他の区域のついても削減する方向で対処するとともに、将来的には原則禁止を目指します。

しかし、大野川の河口付近等の局所的な堆砂が流下阻害となるところについては、河川環境、河床維持、賦存量を総合的に判断して対処します。

5. 河川情報の高度化及び提供

洪水や渇水等の災害時には、正確で迅速な情報を地域住民に提供することで、被害を最小限に抑えることが極めて重要です。

このため、台風時や夜間などでも常に河川及び河川管理施設等の状況を監視し、遠隔操作により水門・樋門等の操作を確実に行うことを目的に、表4-9に示した光ファイバー網の整備及びCCTV(監視カメラ)、浸水センサー、遠隔制御装置などの施設整備を行います。

また、洪水時等は河川情報システムにより流域内の雨量や河川水位等の河川情報の収集を行い、水防警報を発令する等、関係機関とも連携して水防体制の維持・強化を図り、河川沿川の住民に対して洪水予報等の防災情報を提供します。この際、受け手となる一般住民にとってわかりやすいよう工夫を行うとともに、リアルタイムでの情報の提供に努めます。

さらに、迅速かつ的確な水防活動が実施できるよう、老朽化が進んだ水門・樋門等の施設や堤防の整備状況等を記載した重要水防区域図の作成や、氾濫区域、防災情報を掲載したハザードマップ等の作成を行い、水防団をはじめ地域住民に対し危険個所を平時から周知するとともに、防災関係機関や地域住民と連携して大規模洪水氾濫を想定した危機管理計画の策定を推進します。

表4-9 河川情報の高度化
河川名 場所 整備内容
大野川 河口~19/000付近 光ファイバー網
CCTV(監視カメラ)
浸水センサー
遠隔制御装置等
乙津川 河口~9/000付近
判田川 本川合流点~1/300付近
立小野川 判田川合流点~0/300付近

6. 水防団との協働

河川整備と相まって、洪水等の被害を最小限に食い止めるためには、河川整備とあわせて地元の水防団等による巡視や、緊急対策として行われる各種水防工法の実施による水防活動が必要不可欠です。また、近年河川周辺への資産の集積に伴い、水防活動の役割は益々重要なものとなっています。

このため、日常から河川管理者と水防団が密接な情報交換を行う等、相互の協力体制を推進します。また、水防団が 迅速・的確な水防活動を行うため、水防拠点として整備した大分市大野川防災センターの積極的な活用を図り、河川管理者と水防団が協働して洪水時等の対応を行います。

7. 防災意識の向上(もしもの時の心構え)

大野川の洪水被害を防止・軽減するためには、河川整備と併せ地域住民一人一人の防災意識を高め、洪水時の迅速かつ的確な水防活動及び警戒・避難を行う必要があります。

このため、大分市等と協力して平時から水防活動及び警戒・避難を助けるハザードマップ等の防災情報の提供を積極的に行うとともに、防災教育や防災訓練等を行います。

防災訓練 (平成12年度大野川水防演習)

8. 水量・水質の監視等

適正な河川管理のためには、日常的に雨量・水量・水質の把握を行うとともに、地域への情報提供を行う必要があります。

水量減少時においては、関係機関と連携を図り、白滝橋地点において動植物の生育・生息環境の保全及び、利水や景観に少なくとも必要な流量である17m3/secを下回らないよう新規に建設するダムの貯留に対して制限を行います。また、渇水による影響の軽減を図るため、渇水調整の体制を整備し、情報収集・提供を行います。

現在良好な状態を保っている水質については、大分川流域もあわせ組織されている「大分川・大野川水質汚濁防止連絡協議会」(以下「協議会」)を活用し、生活雑排水対策等を引き続き行っていくとともに、水質事故等については、河川巡視や「協議会」との連携により早期発見と適切な対処に努めます。

第3節 その他河川の整備を総合的に行うために必要な事項

1. 地域ぐるみの河川管理

近年、貴重な水と緑の空間として人々にうるおいを与える河川の役割が再評価され、地域と河川の関係を取り戻そうとする機運が高まりつつあります。地域住民や市町村等の地域ぐるみの河川管理を推進するため、大野川の河川清掃やイベント等の地域住民の自主的な活動に対しては、安全で多数の地域住民が参加できるよう、これらの活動に必要となる河川情報を提供する等の支援を行います。

これらにより、地域住民が大野川に関わる機会を設け、住民参加による河川管理を推進します。

2. IT(情報技術)を活用した河川情報の共有化

携帯電話やインターネットの普及等に見られる急速なIT関連技術の進歩により、災害時における河川状況の監視や防災情報の迅速・的確な提供、共有化を図ります。

また、平常時も水文、水質等の河川及び流域に関する情報について、使いやすく誰でもアクセスできるようリアルタイム情報を含めて河川情報データベースを構築し、インターネット等により住民に向けて情報発信を行います。さらに、河川整備に対する住民意見の継続的な集約をホームページ等で行い、地域住民とのコミュニケーションの充実並びに強化を図ります。

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