嘉瀬川は、その源を佐賀県佐賀市三瀬村の脊振山系(標高912m)に発し、神水川、天河川、名尾川等の支川を合わせながら南流し、石井樋で多布施川を分派し、その後下流で祗園川を合わせて佐賀平野を貫流し、有明海に注ぐ、幹川流路延長57km、流域面積368km2の一級河川である。 その流域は、佐賀県中央部に位置し、佐賀市をはじめ3市3町からなり、流域の土地利用は、山地等が約46%、水田や畑地等の農地が約38%、宅地等の市街地が約16%となっている。
流域内には佐賀県の県庁所在地である佐賀市があり、沿川には、JR長崎本線、九州横断自動車道、国道34号等の基幹交通施設に加え、有明海沿岸道路、佐賀唐津道路が整備中であり交通の要衝となっている。また、官人橋から河口までの中・下流部では扇状地に加え、干拓により形成された広大な佐賀平野が広がり、二毛作が盛んで、この地域の社会・経済・文化の基盤を成している。さらに、脊振・北山県立自然公園、川上・金立県立自然公園、天山県立自然公園等の豊かな自然環境に恵まれていることから、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。 嘉瀬川流域は、上流部は脊振山等の1,000mを越える急峻な山地に囲まれ、中・下流部は干拓により拡大した低平地の佐賀平野が広がり、佐賀市を中心とする市街地が形成されている。河床勾配は、上流部は1/50〜1/100と急勾配であり、中・下流部は1/1,000〜1/5,000と緩勾配になっている。さらに中流部においては天井川の様相を呈している。また、下流部は有明海特有の大きな干満差があり、ガタ土の堆積が著しい。
流域の地質は、上流部の大部分が中生代の風化花崗岩類で覆われており、土砂の供給が多い。中・下流部の大部分は沖積層より成り、表層部には有明粘土層が分布している。
流域の気候は内陸型気候に属し、年間平均降水量は、約2,200mmと多く、降水量の大部分は梅雨期と台風期に集中し、特に山地部に多い。
源流付近は、河岸の樹木が川面を覆い、小滝や早瀬と淵が多く、タカハヤやカジカガエル、ヤマセミなどが生息している。
源流から官人橋までの上流部は、人工林を主体とした山間渓谷となっており、河床には巨石や玉石が多く、アユやカワガラスなどが生息している。川上峡付近は、九州の嵐山と称される景観を呈している。なお、この区間に数多く存在する堰等には魚道が設置されていないことから、魚類等の移動が制約を受けている。
官人橋から嘉瀬川大堰までの中流部は、佐賀平野を流下し、広い河川敷と狭い低水路からなり、嘉瀬川大堰等による湛水区間が大半を占める。河岸には尼寺林(水害防備林)に代表されるモウソウチクやメダケ、ヤナギ類等の河畔林が点在し、動物の貴重な生息場となっている。また、数少ない瀬、淵にはアユ、ウグイ、タナゴ類等が生息し、湛水域にはギンブナ、カワムツ等が生息している。石井樋からは多布施川が分派し佐賀市街地を貫流している。
汽水域となる嘉瀬川大堰から河口部までの下流部は、干拓地の田園地帯を流下し、有明海へと注ぐ。有明海特有の大きな干満差の影響を受けた、広大な干潟が広がっており、水際にはヨシ原が繁茂している。干潟にはムツゴロウ、シオマネキやハラグクレチゴガニ、シギ・チドリ類等が生息し、ヨシ原にはオオヨシキリ等が生息している。 嘉瀬川における治水事業の歴史は古く、佐賀藩の家老成富兵庫茂安が江戸時代(17世紀前半)に始めたとされ、洪水をゆるやかに流す工夫として河畔竹林や荒籠(水制)の整備、遊水機能を期待した広い高水敷などが築かれた。嘉瀬川の本格的な治水事業は、昭和24年8月洪水を契機に、昭和25年から佐賀県による中小河川改修事業として、官人橋地点における計画高水流量を2,200m3/sとし、官人橋地点から河口までの区間及び祗園川の下流について、築堤、護岸等の整備を実施した。
その後、昭和28年6月、昭和38年6月等の洪水の発生及び流域の開発等を踏まえ、昭和48年に基準地点官人橋における基本高水のピーク流量を3,400m3/sとし、このうち嘉瀬川ダムにより900m3/sを調節して、計画高水流量を2,500m3/sとする工事実施基本計画を策定した。平成3年3月には、固定堰であった旧徳万堰の可動堰化により、流下能力の向上を図るべく嘉瀬川大堰を建設した。
河川水の利用については、古くは成富兵庫茂安が、農業用水や佐賀城下の生活用水を取水するため、石井樋等の利水施設を築造しており、現在でも派川多布施川を通じて佐賀市街地の水路を潤している。また、平地に比べ山地面積の割合が少ないなど、河川水に乏しい地域であることから、ため池やクリーク、地下水の利用などを組み合わせた利用がなされてきた。
嘉瀬川においては、農業用水として北山ダムと川上頭首工等から約11,900haに及ぶ農地へ利用され、都市用水として佐賀市、小城市、久保田町等に供給されている。また、川上川第1発電所をはじめとして現在8箇所の発電所により総最大出力約44,000kWの電力供給が行われている。
嘉瀬川の過去17年間(昭和63年〜平成16年)の池森地点における、概ね10年に1回程度の規模の渇水流量は0.64m3/sである。多様な水利用の取り組みがなされているにもかかわらず、近年では平成6年の大渇水等、しばしば深刻な水不足に見舞われ、農作物等の被害が発生している。 水質については、嘉瀬川大堰上流はA類型、嘉瀬川大堰から河口までがD類型に指定され、いずれの地点も環境基準をほぼ満足している。 河川の利用については、平野部の河川敷の多くが公園や運動場等として整備され、都市近郊における貴重なレクリエーション空間として一年を通して盛んに利用されている。特に、嘉瀬川大堰上流の河川敷において開催される佐賀インターナショナルバルーンフェスタは100万人もの観光客でにぎわいを見せている。川上峡を望む與止日女神社周辺や石井樋周辺、多布施川沿いには、公園や散策路等が整備され、市民の憩いの場、歴史、環境学習の場として利活用されている。
嘉瀬川水系では、中流部の天井川からの洪水氾濫や低平地内内水等による災害から貴重な生命・財産を守り、地域住民が安心して暮らせるよう社会基盤の整備を図る。また、国際的なバルーン大会や市民の貴重な憩いの場となっている河川空間や良好な河川環境を保全、継承するとともに、地域の個性と活力や石井樋に代表される嘉瀬川の歴史や文化を実感できる川づくりを目指すため、関係機関や地域住民と共通の認識を持ち、連携を強化しながら、治水・利水・環境に関わる施策を総合的に展開する。
このような考え方のもとに、河川整備の現状、森林等の流域の状況、砂防や治山工事の実施状況、水害の発生状況、河川利用の現状(水産資源の保護及び漁業を含む)、流域の歴史、文化並びに河川環境の保全等を考慮し、また、関連地域の社会情勢の発展に即応するよう環境基本計画等との調整を図り、かつ、土地改良事業や下水道事業等の関連事業及び既存の水利施設等の機能の維持に十分配慮し、水源から河口まで一貫した計画のもとに、段階的な整備を進めるにあたっての目標を明確にして、河川の総合的な保全と利用を図る。
治水・利水・環境にわたる健全な水循環系の構築を図るため、クリークやため池などの佐賀平野の水システムを活かしながら、河川水の確保、流域の水利用の合理化、下水道整備等について、関係機関や地域住民と連携しながら流域一体となって取り組む。
河川の維持管理に関しては、災害発生の防止、河川の適正な利用、流水の正常な機能の維持及び河川環境の整備と保全の観点から、河川の有する多面的機能を十分に発揮できるよう適切に行う。また、上流から海岸までの総合的な土砂管理の観点から、流域における土砂移動やガタ土の堆積に関する調査研究に取り組む。有明海への適切な土砂供給や安定した河道の維持に努める。
災害の発生の防止又は軽減に関しては、官人橋から下流の扇状地及び低平地の洪水の水位を下げるため、本川上流部において洪水調節施設による洪水調節を行う。また、祗園川から下流の洪水流量を低減させるため、官人橋下流において洪水調節施設により洪水調節を行う。嘉瀬川の豊かな自然環境や河川の利用及び河道の維持に配慮しながら、堤防の整備や質的強化、河道掘削、護岸整備等を実施し、計画規模の洪水を安全に流下させる。下流部においてはガタ土が堆積しており、掘削による河積の拡大が困難であるため、引堤等による河積拡大の方策について検討する。堤防の耐震化を図るとともに、河口部においては、高潮堤防の整備を行う。
佐賀平野は干拓により拡大した低平地であり、また有明海特有の大きな干満差の影響により内水排除が困難である。内水被害の著しい地域においては、国、県、市等の関係機関と連携・調整を図りつつ、排水ポンプや流況調整河川等により内水被害の軽減対策を実施する。
堤防、堰、排水機場、樋門等の河川管理施設の機能を確保するため、ガタ土の堆積等の河川特性を踏まえ、巡視、点検、維持補修、機能改善等を計画的に行うことにより、常に良好な状態を保持するとともに、河川空間監視カメラ等による監視の実施等により施設管理の高度化、効率化を図る。なお、内水排除のための施設については、排水先の河川の出水状況等を把握し、適切な運用を行う。
河道内の樹木については、樹木の阻害による洪水位への影響を十分把握し、河川環境の保全に配慮しつつ、洪水の安全な流下を図るために計画的な伐採等の適正な管理を実施する。特に、歴史的な水害防備林である尼寺林については、環境教育等の活用も考慮し、健全な状態が維持されるよう管理する。
また、計画規模を上回る洪水及び整備途上段階での施設能力以上の洪水が発生し氾濫した場合においても、被害をできるだけ軽減できるよう必要に応じた対策を実施する。
低平地である佐賀平野は有明海特有の大きな干満差の影響や地盤沈下により氾濫水が長期間湛水する特徴を有している。洪水等による被害を極力抑えるため、既往洪水の実績等も踏まえ、河川堤防や高規格道路等をネットワーク化し復旧資材の運搬路や避難路を確保する広域支援ネットワークや関係機関の情報を共有し地域住民に提供する広域防災情報ネットワークの構築に向けて、関係機関と連携・調整しながら地域一体となって取り組む。また、洪水予報及び水防警報の充実、水防活動との連携、土地利用計画や都市計画との調整等、総合的な被害軽減対策を関係機関や地域住民等と連携して推進する。さらに、ハザードマップの作成の支援、地域住民も参加した防災訓練等により災害時のみならず平常時からの防災意識の向上を図る。
本川及び支川の整備にあたっては、本川中・下流部において、人口、資産が特に集積していることから、本支川及び上下流のバランスを考慮し、水系一貫した河川整備を行う。
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関しては、新たな水資源開発を行うとともに、広域的かつ合理的な水利用の促進を図る等、都市用水及び農業用水の安定供給や流水の正常な機能を維持するため必要な流量の確保に努める。
また、渇水等の発生時の被害を最小限に抑えるため、情報提供、情報伝達体制を整備するとともに、水利使用者相互間の水融通の円滑化等を関係機関及び水利使用者等と連携して推進する。
河川環境の整備と保全に関しては、嘉瀬川と流域の人々との歴史的文化的なつながりを踏まえ、嘉瀬川の流れが織りなす良好な河川景観の保全を図るとともに、多様な動植物の生息・生育する豊かな自然環境を次世代に引き継ぐよう努める。このため、流域の自然的、社会的状況を踏まえ、河川環境の整備と保全が適切に行われるよう、空間管理をはじめとした河川環境管理の目標を定め、地域住民や関係機関と連携しながら地域づくりにも資する川づくりを推進する。
動植物の生息地・生育地の保全については、アユやタカハヤ、カジカガエル等が生息する良好な渓流環境の保全、アユ等の産卵場や生息場となっている瀬や、タナゴ類、スナヤツメ等が生息する淵の保全に努めるとともに、歴史的に豊かな自然環境を有し、キツネやタヌキ等の貴重な生息場である尼寺林(水害防備林)や河畔林の保全に努める。シオマネキ等が生息し、クロツラヘラサギ等の採餌場となっている河口域の干潟については、生物の多様性を考慮し、生物の生活史を支える環境を確保できるよう配慮する。また、オオヨシキリ等が生息するヨシ原等の保全に努める。
また、魚道が設置されていない堰等については、関係機関と調整した上で魚道を設置するなど、魚類等の生息場の連続性の確保に努める。 良好な景観の維持・形成については、治水との整合を図りつつ歴史的遺構である尼寺林(水害防備林)や石井樋、川上峡と調和した河川景観の保全に努める。 人と河川との豊かなふれあいの確保については、流域の歴史・風土・文化を形成してきた嘉瀬川の恵みを活かしつつ、川づくりを通じて上下流の交流を促進する。上流部ではキャンプや釣りに利用されている水辺空間や渓流の保全、中・下流部では歴史、文化とふれあえる空間や環境学習の場の整備・保全を図るとともに都市近郊における貴重なレクリエーション空間である河川敷の保全や堰の湛水面を利用したレクリエーション活動の支援を図る。
また、貴重な文化遺産である石井樋の保全・再生・活用を通じて、土木史上重要な河川技術を未来に継承するとともに、佐賀平野の治水、利水の歴史を学び、嘉瀬川の自然豊かな水辺環境とふれあえる地域の交流拠点の創出を図る。 水質については、河川の利用状況、沿川地域の水利用状況、現状の環境を考慮し、下水道等の関連事業や関係機関との連携・調整、地域住民との連携を図りながら、現状の水質の保全に努める。
河川敷地占用及び許可工作物の設置・管理については、動植物の生息・生育環境の保全、景観の保全に十分に配慮するとともに、多様な利用が適正に行われるよう、治水・利水・環境との調和を図る。
また、環境に関する情報収集やモニタリングを適切に行い、河川整備や維持管理に反映させる。 地域の魅力と活力を引き出す積極的な河川管理を推進する。そのため、直轄管理区間上流に位置する石井樋に建設した「さが水ものがたり館」や中流部に建設予定の防災ステーション、嘉瀬川大堰付近の「水辺の楽校」などを通じ、河川に関する情報を地域住民と幅広く共有し、防災学習、河川の利用に関する安全教育、環境教育等の充実を図るとともに、住民、ボランティア団体等の参加による河川清掃、河川愛護活動等を推進する。
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