流域及び河川の概要

六角川は、その源を佐賀県武雄市山内町の神六山(標高447m)に発し、武雄川等の支川を合わせて低平な白石平野を蛇行しながら貫流し、下流部において牛津川を合わせて有明海に注ぐ、幹川流路延長47km、流域面積341km2の一級河川である。

六角川流域は、佐賀県のほぼ中央に位置し、関係市町数は3市3町からなり、本川に武雄市、支川牛津川に多久市、小城市といった主要都市を有している。流域の土地利用は、水田や畑地等が約50%、山地等が約37%、宅地等が約13%となっている。

沿川には九州横断自動車道をはじめ、国道34号、国道203号、JR長崎本線、JR佐世保線等の基幹交通施設に加え、有 明海沿岸道路、佐賀唐津道路、長崎新幹線が整備中であり、交通の要衝となっている。下流部の白石平野では稲作が盛んなほか、近年では、たまねぎ・れんこん の国内有数の生産地として知られている。また、流域内の武雄市では、温泉を核とした観光産業が盛んであり、この地域の社会・経済・文化の基盤を成してい る。さらに、天山県立自然公園、八幡岳県立自然公園等の豊かな自然環境に恵まれている。このように、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大き い。

流域の地形は、脊振・天山山系、神六山等に連なる丘陵性山地に囲まれ、中・上流部は、山地部と細長い平地で形成され、下 流部は、古くからの干拓によって形成された白石平野が広がっており、これら低平地帯を大きく蛇行しながら流下し、有明海の湾奥部特有の大きな干満差の影響 が河口から約29km付近にまで及んでいる。このようなことから、流域面積の約6割が内水域となっており、白石平野をはじめとする低平地帯では、内水排除 が困難であり、古くから内水による浸水被害が頻発している。

一方で、地形上、河川水の利用が困難であることから水不足を補う地下水の過剰取水が行われたため、一時は白石平野を中心として、累積で最大約1mもの著しい地盤沈下が生じ、家屋の浮き上がり、水道管の破断等が発生し、社会的な問題となっていた。

河床勾配は、上流部では約1/60程度であり、中流部で約1/150~1/1,000程度で、下流部では約1 /1,500~1/45,000程度の緩勾配となっている。また、長い感潮区間では、河底には砂が確認されており、河岸には有明海より遡上する浮遊粘土 (ガタ土)が堆積している。

流域の地質は、上流部では新生代第三紀の堆積岩や火山岩などからなり、中下流部では有明海の海退や干拓等により沖積平野が形成され、極めて軟弱地盤である有明粘土層が広く分布している。

流域の気候は、内陸型気候に属し、平均年降水量は約2,000mm程度であり、降水量の大部分は梅雨期に集中している。

源流から大日井堰までの六角川中・上流部は、スギ・ヒノキからなる山林の中に矢筈ダムによる湛水域が形成され、ダム湖に はコイ、フナ類等の魚類が生息し、ヒドリガモが越冬のために飛来する。ダムより下流は、低山・丘陵地に挟まれた平地を流下し、瀬・淵や堰による湛水域が形 成されている。瀬はオイカワやヨシノボリ類の産卵場となっており、淵や湛水域にカワムツやギンブナが生息している。河岸にはオギ群落等が群生し、一部の区 間にはヤナギ林、竹林等の河畔林が形成され、サギ類等の採餌場、休息場となっている。

大日井堰から六角川河口堰までの六角川下流部は、白石平野を大きく蛇行しながら流下し、河口から約29kmにも及ぶ長い 汽水域を有している。汽水域にはエツやワラスボ等の有明海特有の魚類とギンブナやモツゴ等の淡水魚が混在して生息し、独特の生態系を有している。水辺には 連続して干潟、ヨシ原が形成され、干潟にはハラグクレチゴガニが生息し、ヨシ原はオオヨシキリの繁殖場、カヤネズミの生息場となっている。点在する江湖と 言われる入江状の河川空間は、稚魚の成育場となるなど、六角川の多様性の一翼を担っている。

六角川河口堰より下流の六角川河口部は、有明海湾奥部特有の干満差が最大約6mにも及ぶ潮汐の影響を受け、広大な河口干 潟が形成され、有明海と一体となっている。干潟には、ムツゴロウやシオマネキが生息しており、シギ・チドリ類やカモ類の渡り鳥の中継地、越冬地となってい る。水際にはシチメンソウやヒロハマツナ等の塩生植物が生育し、その背後にヨシ原が形成されている。

源流から古賀橋下流までの牛津川中・上流部は、山間地を流下し、瀬・淵やアラカシ・ムクノキ等のまとまった河畔林が分布 し、変化に富んだ河川環境が形成されている。水辺にはツルヨシが繁茂し、瀬・淵が連続する流水区間には、オイカワ、カマツカ、カゼトゲタナゴ等の魚類が生 息している。河岸には、タチヤナギ等の河畔林が点在し、水辺にはツルヨシが繁茂している。

古賀橋下流より六角川合流点までの牛津川下流部は、低平な白石平野を蛇行しながら流下し、約12kmに及ぶ汽水域を有しており、六角川下流部と同様の自然環境及び生物相となっている。

河口から沿岸部では、エツ等の有明海特有の魚類やヒイラギ等の海産魚の生息場となっている。また、六角川の汽水域はこれ ら海産魚の成育場としての役割を担っており、汽水域と有明海が連続性のある生物相を形成している。さらに、六角川河口を含む有明海は、「日本の重要湿地 500」(環境省)に選定されている。

六角川における治水事業の歴史は古く、佐賀藩の家老成富兵庫茂安が江戸時代(17世紀前半)に始めたとされ、上流の氾濫 水から家屋等を防御するための横堤や捷水路等が築かれた。近代の本格的な治水事業は、昭和11年から中小河川改修事業として、佐賀県が牛津川の築堤等に着 手したことに始まり、昭和23年7月及び9月洪水を契機に、昭和24年から古賀橋地点における計画高水流量を730m3/sとし、築堤、掘削等を実施した。

その後、昭和28年6月及び昭和31年8月洪水等を受け、昭和33年から直轄事業として、住ノ江地点の計画高水流量を1,600m3/sとし、築堤等を実施した。昭和41年には一級水系に指定され、同年に、これまでの計画を踏襲する工事実施基本計画を策定した。

さらに、流域の社会的、経済的発展に鑑み、昭和45年に基準地点住ノ江橋における基本高水のピーク流量を2,200m3/sとし、このうち、流域内の洪水調節施設により200m3/sを調節し、計画高水流量を2,000m3/s とする計画に改定した。以降、この計画に基づき、堤防の新設及び拡築、高潮対策として六角川河口堰の建設や高潮堤防の整備等を実施してきた。ところが、昭 和55年8月洪水では、家屋浸水4,835戸に及ぶ甚大な被害が発生したため、激甚災害対策特別緊急事業を採択し、堤防等の整備を緊急に実施した。

さらに、平成2年7月には観測史上最大の洪水により、死者1名、家屋浸水8,686戸に及ぶ甚大な被害が発生したため、再び激甚災害対策特別緊急事業を採択し、平成4年には牛津川の妙見橋における計画高水流量を1,150m3/sとする計画の改定を行い、平成14年に牟田辺遊水地を完成させた。

また、頻発している内水浸水被害に対して、平成7年に床上浸水対策特別緊急事業の採択等を行い、これまでに約350m3/sの排水機場が整備されている。

砂防事業については、佐賀県が昭和19年から砂防堰堤等を整備している。

河川水の利用については、古くは成富兵庫茂安が農業用水を確保するため、永池の堤や羽佐間水道等の利水施設を築造してい る。また、六角川流域は、汽水域が河口から約29km付近までと長く、河川水の利用が難しいこと等から、ため池、クリーク、地下水等を組み合わせた水利用 がなされている。なお、昭和58年には不特定用水の確保等を目的に六角川河口堰を完成させたが、閉め切りによる漁業等への影響の懸念や農業情勢の変化によ り、河口堰の運用形態の変更を行った。

現在、農業用水として約3,400haの農地でかんがいに利用され、水道用水、工業用水として武雄市内、多久市内で利用 されている。一方、平成6年の大渇水等、しばしば深刻な水不足に見舞われたことから、水不足を補う地下水の過剰取水が行われ、一時は著しい地盤沈下が生じ ていた。しかし、隣接する嘉瀬川流域などから導水する佐賀西部広域水道用水の供給等により地下水の取水は減少している。

水質については、六角川では河口から牛津川合流点まではE類型、牛津川合流点から大日井堰まではD類型、大日井堰から上 流はA類型に指定されており、牛津川では六角川合流点から羽佐間堰まではD類型、羽佐間堰から中通川合流点まではC類型、中通川合流点から上流はA類型に 指定されている。BOD75%値で見ると、六角川及び牛津川のいずれの地点も環境基準を概ね満足している。

 河川の利用については、水辺のほとんどが干潟とヨシ原で覆われていることから、堤防上の散策が主となっているが、矢筈ダム貯水池周辺、武雄川沿川に位置する高橋自然観察園、河口付近の干潟体験場では、スポーツ、自然観察、自然体験等に利用されている。

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